早朝お忍びで屋台料理をいただく

いちのさつき

第1話 記録係が記した文

屋台はいつの時代、どこの世界でも、労働者の味方。食文化が反映されていると言える、迅速に出来上がる食べ物だろう。


大陸の東部最大の王朝――リエン朝も屋台文化を持つ。因みに絶賛黄金時代と言える。それ故に、周辺の国々から貢物が集まり、金が集まり、商売人がやってくる。


大勢の人々が行きかう港町の屋台で最も注目が浴びているものは

小麦粉で出来た生地に乳が発酵したものを載せ、野菜や魚介類、獣の肉を載せて、釜に入れて焼いた物だという。


それを作っている料理人はまだまだ幼い女の子。頬にそばかすがあり、手入れされていない赤毛をひとつに纏めた小柄な、十歳の女の子。


とても元気で明るく、素直な子だと、小麦粉を取り扱う業者が言う。


料理に対して真剣だと、別の料理人が言う。


いつだって幸せの味を運んでくれると、肉体労働者が言う。


どれだけ証言があっても、庶民に親しまれる幼い料理人の名を知らない。文化は名もなき民の中から生まれることがある。私はこっそりと抜け出して、噂の料理を食し、実際に会って話がしたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る