第5話
用意された運命の出会いは、リリスの予想とは全く違っていた。
不機嫌そうなKOUと、一様に気まずそうな対バン相手のバンドマン達。
悪いことをしたわけではないが、リリスまで縮こまっていた。
「ご、ごめんってぇ勝手にメンバー増やしたりして……でも食料いっぱい買ってきたし……!」
「そんなことで怒ってんじゃないスよ」
「えっ?」
KOUは、リリスを頭のてっぺんから爪先まで見た。
車内で散々可愛い女の子扱いをされて調子に乗っていたリリスは、はにかんだ表情をする。
「その格好だと、山に来るって教えてないでしょ? それに、急に山に連れて来られたら怖いと思いますよ」
「あっ……」
KOUに言われて薄手のワンピースとミュール姿のリリスを見たバンドマン達は、失態に気付いて口を開けた。
どう見ても山に来る服装ではない。
「ご、ごめんね……! 怖い思いさせるつもりとか全然なくて!」
「あっそんな、気にしないでください!」
バンドマンの謝罪の後は、一気に和やかな雰囲気になった。
やはりKOUは優しい男だ。ネット情報しか知らなかったが、リリスは改めてそう思った。
◇◇◇
KOUに罰として昼食作りを命じられたバンドマン達に頼み事をされたリリスは、一人山道を歩いていた。
せせらぎに誘われて川に近付いていくと、釣りをするKOUの後ろ姿が見える。
「KOUさん!」
「リリスちゃん」
特に集中しているわけでもないのか、リリスに気付いたKOUはリリスの方を見て話してくる。
「やっぱブカブカだなぁ。ごめん、俺のサンダルくらいしかなくて」
「いえっ、むっ……そんな……」
借りたサンダルに対して「いえいえむしろご褒美でスウウウ」と言いそうになって、リリスは咄嗟に則夫を封印する。
バンドマン時代も、慕っている先輩にこんな態度をとっては「気持ちわりーな!」と突っ込まれていた。
それはそうと、転んだり靴が傷むといけないからとサンダルを貸してくれるKOUの人間性は清らかすぎる。
「あっ! もうすぐご飯出来るって言ってましたよ!」
「本当? そういえば腹へった」
ご飯が出来ると聞いて嬉しそうな顔をするKOUは、中身が30代のオッサンであるリリスからしても可愛かった。
最初は「近くで見ると怖ぇな、でけーし」と思ったりもしたが、体格はともかく猫目で可愛い顔立ちをしている。
顔は可愛いのにがっしりとした肉体というのも、女子からしたらギャップ萌えポイントかもしれない。
「……ねぇ、一つ聞いてもいいですか?」
「……? なに?」
「もしかして、空港で私のこと助けてくれたお兄さんですか?」
リリスの問いに、KOUは目をまん丸くした後、手で顔を覆った。
「バレたかぁ……」
「えっ、気付いてたんですか? なんで隠すの?」
「俺から言うのもだせぇじゃん?」
確かに……と納得させられてしまう。則夫はいまいち女の子にはなりきれていない。
「なんで分かったの?」
「えっと……声が似てるなぁって」
柔らかくて少し幼い特徴的なKOUの声は、ライブ会場では聞けなかった。
車から降りて最初に聞いてから、リリスはずっともしかして……と期待混じりで、KOUに確かめるタイミングを見計らっていたのだ。
「声ー? よく覚えてんね」
「結構特徴ありますよ」
「そうかー?」
本当の女の子なら、「かっこよかったから」なんて言えたのだろうか。
リリスはまだ男の人にそんな歯の浮く台詞を吐くのには照れがあって、「助けてくれた?」と聞くので精一杯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます