第2話 会話は最小限にメモの情報源は豊富に。

私は完全に喋れないわけではない。

喋れるには喋れるのに、人前に出ると声が自分のものではないみたいに、止まってしまう。

でも、喋りたいと文章では口に出せるのに、どうして私は声が出ないのだろう。

私は誰かと話せはするのに、初対面や面接では喋る力がなくなってしまう。

そんな私が通うクリニックがある。

主治医の名前は時石かなめ先生。

先生と出会って4年くらいになる。

主治医は私のことがよくわかっているみたいだ。

でも、私は先生のことは何も知らない。

だけど、それが主治医と患者の関係なんだと思う。

この先も主治医とは変わらず主治医の前では偽らない私でいたい。

主治医は私にいつものように同じ言葉を投げかけるけど、それが心地いい。

『今週はどうでしたか?』

私は間を置いて話し始める。

そうじゃないと言葉が上手く操れないからだ。

『とても調子が良かったです』

間髪入れずに主治医は話す。

『どんなふうに調子が良かったのかな?』

主治医の言葉は優しくて包み込むような言葉の匙加減を持っているけれど、私にとっては次の質問の答えを頭の中でくるくると探しては間を開けることを怖がっていた。

そして、やっと見つけた答えが、主治医の想像を超えていたのかもしれない。

『すごく空が飛べるくらい調子がいいんです』

主治医は苦笑いを浮かべながらも少し悲しそうな顔をしていた。

そして口を開くと言った。

『それは、調子が良くない証拠なんだよ。空が飛べる、空が飛べそう、そんな風に感じる時が1番危ない時期なんだよ。あんまり無理しないでね』

私はただ調子がいいことを主治医に知ってほしかったそれだけなのに、逆に主治医から言われた言葉は私にとっての調子がいいことを違うという事実に訂正されただけだった。

私は主治医と話す時間はそんなにない。

ほとんど私が話したいことをメモに書き、渡してる。

主治医はそれを見て話してくれる。

だから、ほとんど会話は文章だけで事足りる。

でも、私はまだ主治医と最後まで自分の言葉だけで伝えることは叶っていない。

今日の分の主治医との会話が終わると納得がいく。

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