第2話 私の好きな人

「あ、雪」


 寒空の下、歩いていると雪が降ってきた。残念だけど、私は雪が降っても喜ばない。余計に寒くなるし、積もると歩くのが大変。それに……。


「由姫、雪が降ったぞ~」


 こういう名前イジリを、お約束のようにされていたからだ。そんなことをされる度に、暗い私は困っていた。どう返せば正解か分からなくて、いつだって「つまらない奴」と思われてしまう。

 また「白井」という名字も結構からかわれた。だから色白な肌なのか。不健康そうだね。お化けみたい。言われた回数も傷付いた回数も覚えていない。数えきれない。

 それなのに……。


「いやー、降ってきちゃったね! 寒いよ由姫ちゃん!」

「うん、そうだね」


 私はコンプレックスだらけだった。どちらかと言えば、生きるのが苦しかったし、下手だった。確かに楽しいことや嬉しいことはあったけれど、悲しくなる方が多かったと思う。

 そう、あの日までは……。


「嫌なことはさぁ、もう思い出さないようにしようよ! せっかく雪が降ってきて、こんなにもデートがロマンチックになったんだからさぁ!」

「あ、ありがと……」


 なぜ私のことが、こんなにも簡単に分かってしまうのか。それは本人曰く「ボクが由姫ちゃんを大好きだから!」らしい……。


「まあ気持ちは分かるよ! ボクも全く王子様じゃないのに、央司なんて名付けられちゃったんだし!」

「そんな……」


 あの日、私を好きだって言ってくれたあなたは間違いなく王子様だったよ。

 ただ忘れ物を取りに来ただけなのに、教室に入ったら告白されちゃった。

 でも……こんな私が大嫌いな私を好きになってくれて、すごく嬉しかった。

 本当に本当に、ありがとう。

 名前負けなんてしていないよ、央司くん。


「いやぁ照れるなぁ。そこまで言われちゃったら……でも、ありがとね!」

「えっ!」


 どうやら私の心の声は、外に出てしまっていた。そして当然、央司くんに届いてしまったのだった……。握られていた手と手が、さっきよりもしっかりと結ばれている。

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マジお姫様と王子様 卯野ましろ @unm46

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