16.美少女ランキングの危険人物
泉くんが休み時間に教室に来たらどうしよう……。
結局、美月のことでなんのアドバイスもできていないし。などと考えていたものだけど、教室に彼が訪れることはなかった。僕の平穏の時間は守られたのだ。
なので、休み時間にしていたことといえば、いつも通りの情報収集である。
「最新の学内美少女ランキングができたぞー!」
「「「おおーーっ!!」」」
僕の席の近くで、男子グループが盛り上がっていた。男子ってほんとバカ……っ。
「つっても一位は変わらず松雪さんだろ?」
「まあな。でも今回は一年どもからも票を集められたからさ。けっこう変わってたりはするんだよ」
こういうのってどうやってランキングの票を集めているんだろ? 僕は一度も聞かれたことはないんだけど。陰キャメンズからの票が反映されていないし、想像よりも投票率は低いのかもしれない。
そもそも女子にランキングなんかつけるのは失礼だ。まったく、こんなことで大盛り上がりするなんて子供だなぁ。
「二年の女子で一気に順位を上げてきたのがD組の杉藤さんだ。彼女がトップ10入りするなんて誰が想像できたんだろうな」
む……。杉藤さんって、この間喫茶店に行った時のウェイトレスさんか? 松雪さんの友達っていう。
松雪さんと並んでも、見劣りしないくらい可愛い人だったもんな。みんなから美少女と言われても納得かも。
「前は近寄りがたかったけど、最近角が取れていたもんな。そう思えばちょっときつめだけど、けっこう可愛い顔してるし」
「それに何よりも巨乳! 学内巨乳ランキングでもトップ10は確実では?」
「杉藤さん、彼氏ができたらしいぞ。男ができると色気が出てくるって本当だったんだな」
へぇ……杉藤さんって彼氏がいたんだ。
まあ、あれだけ可愛ければ不思議でもないか。美月にだって彼氏ができたわけだし。
……美月も色気が出て、僕が知らない彼女に変わっていくのだろうか。
変なこと考えてるな。今は頭を休めて、男子たちの雑談をBGMに目を閉じておこう。
「二位はなんと一年だぜ。城戸紬ってんだけど知ってるか?」
城戸さん!? 城戸さんって人気者だったのか!?
同じ陰キャ仲間だと思っていたのに……。なんだか彼女が遠くへ行ってしまったような気分だ。
「あー、銀髪で背が高くて、おっぱい大きい女子だろ」
おいぃっ! 教室で堂々と「おっぱい大きい」とか言ってんじゃねえよ! さっきも「巨乳」とか言ってたし、女子の耳に入ったらどうするんだ!
「そうそう巨乳の女子。巨乳っつーかあれはもう爆乳だな」
「確かに。おっぱいの大きさなら三年の女子含めても一番でかいんじゃないか? 外見もそうだけど、あのでかさは目立つって」
「そんなにか!? よし、今度見学に行こう」
城戸さん……学校で一番かもしれないほど大きかったんだ……。
今朝の感触を思い出す。あの弾力と柔らかさ、そしてどこまでも沈み込んでいくような包容力……。あれ以上の安らぎはないだろう。
って、何を考えているんだ僕はっ!
僕を庇ってくれた城戸さんに、エッチな目を向けるわけにはいかない。僕は失礼な男にはならないぞ。
「あー……それはやめておいた方がいいぞ」
「あん? なんでだよ?」
なんだ? 城戸さんに近づく男子は親衛隊にでも潰されちゃうのか? さすがに漫画やラノベでもないんだからリアルでそんなことはないか。
「いや、一年の間では有名な話らしいんだけどさ……」
声を小さくするものだから、僕は耳に意識を集中させた。
「城戸って自分の父親を半殺しにした、やべえ女なんだよ」
そして、次に聞こえたのは信じられない噂話だった。
「……マジ?」
「けっこう信ぴょう性のある話らしい。城戸と同中の奴らが言ってるんだとさ」
城戸さんは、無意味に暴力を振るう人じゃないだろ……。
きっと何か誤解があるに決まっている。口下手な彼女のことだ。みんなの勘違いを弁明できず、悪い噂が広まってしまったのだろう。
「そういえば今朝も男子と喧嘩していたらしいな。相手の男子は二年だったけど、城戸の剣幕にビビってたらしいぜ」
それ、僕を庇っただけのやつ!
え、もしかして城戸さんの悪い噂は僕のせい? 僕を庇ったから噂の裏付けをしてしまった的な?
「うわぁ、先輩でもお構いなしかよ。暴力女とか最低だな」
「見た目が良くても危なくて近づきたくねえな」
「つーか、そんな奴が学校に来てていいの? 問題起こしたなら退学でもさせればいいのに──」
ガタッ! と。僕は大きな音を立てて、席から立ち上がっていた。
一瞬静まり返る教室。自分の奇行に気づいて、顔がタコのように赤くなるのがわかる。
失敗した失敗した失敗したーーっ!! こんな注目を集めて、何してるんだ僕は!?
「城戸さんは……暴力なんて振るってなんか、ないよ……」
でも、それだけは弁明しなければと口を開いていた。
喉が引き攣って、ちゃんと声になったか自分では判別できない。
「は?」
「いや、だから……今朝の件はただの誤解だったわけで……」
クソッ、大勢の前でしゃべる時に緊張してしまう自分が恨めしい。
「矢沢くん……だっけ? 今朝あった喧嘩を見てたのか?」
「あ、うん。そ、そう、だからあれは誤解でっ」
見ていたっていうか当事者だけどな。
「おおっ、目撃者じゃん。話を聞かせてよ!」
男子グループが一斉に僕の席を取り囲んだ。
ちょっ、いっぺんに来るなよ怖いだろ!
僕の奇行から始まった騒ぎに、より強い注目を浴びてしまった気がする。そ、そんな目で僕を見るなぁっ!
「はいはーい、皆さんお静かに」
騒ぎに気づいたのであろう松雪さんが、手を叩いて注目を集める。
「今朝の騒ぎの件ですが、私もその場にいましたけど少しの行き違いがあっただけのようでした。なので憶測で物事を語らないようにしてくださいね。下手に騒ぎになってしまうと先生方の耳に入って、変な疑いをかけられて呼び出されてしまうかもしれませんからね」
「あ、ああ……。わかったよ松雪さん。教えてくれてありがと……」
言葉とは何を言うかではなく、誰が言うかが重要……。
それを証明するかのように、松雪さんの言葉で騒ぎがあっさりと収まった。いや、彼女と発言力を比べるなんておこがましいにもほどがあるか。
授業が始まれば話はうやむやになる。僕への注目も、完全に霧散したはずだ。
松雪さんに感謝すると同時に、新たな悩みが僕の中に芽生えたのだった。
「城戸さんの悪い噂……どうにかできないかな」
◇ ◇ ◇
昼休みに屋上に行く。それは僕のルーティーンに組み込まれつつあった。
「あっ、矢沢先輩」
「やあ城戸さん、久しぶりだね」
「今朝ぶり、だよ?」
僕の冗談に、城戸さんは心底不思議そうに首をかしげる。なんだかとても恥ずかしいことを言ってしまった気分。
「またパン? もう少し栄養を考えないと大きくなれないと思う」
「城戸さんもパンだろ。成長期は……たぶん過ぎたから気にする必要なし」
お互い似たような総菜パンを食べているのに、なぜこうまで身長差があるのだろうか?
僕が栄養の偏りのせいで大きくなれないのだとしたら、城戸さんも同じように小さくなければおかしい。
なのに目の前の彼女は、ものすごく育っていた。どこもかしこも大きい。学校一大きいと言われても納得するほどに。
やはり遺伝か? 母さん小柄だしなぁ。
城戸さんの隣に腰掛ける。彼女も、とくに何を言うでもなく受け入れてくれていた。
「見つけましたよ比呂くん。現行犯で逮捕します♪」
「はい?」
いきなり屋上のドアが開かれたかと思えば、松雪さんが現れて茶目っ気たっぷりにそんなことをのたまったのである。
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