第5話 ゲームと現実の相違
俺はプレーリーの入り口にある詰所のような小屋の中に座らされていた。
「フェイクラント、お前、いいトシして何してんだ? 普通なら村から追い出されてるぞ?」
「はい……」
「ったく、エミルくんがいなくて村中で騒いでるところでお前ってやつは……」
「その、フェイも悪気は…あったかもしれないけど、きっと何か事情があって……」
俯いて冷や汗を流し続ける俺に説教しているのは、門番をしているオッサンだ。
昨日、俺に「きぃつけろよ」と適当に注意してきた男でもある。
俺の隣にはクリスが座っていて、必死に弁解してくれている。
何故こんな状況になっているかって?
……経緯を説明しよう。
---
俺はこの世界にやってきた翌日、鎮火した焚き火の前で目覚めた。
もうすぐ春らしいがまだまだ寒い。
それでも俺がテントもなく野宿できてしまうのは、この世界の住人は強靭だからだろうか?
それともフェイが風邪を引かないとかいうバカな体質なのか。
「腹減ったな……」
まぁ、それはともかくとして俺は空腹だった。
こっちに来てから口にしたものは昨日クリスからもらった数切れのパンだけだ。
「さて、どうやって金策するかな」
俺は消えた焚き火に薪を投入し、火をつける。
フェイの記憶では、サバイバル活動をしながらたまに村で知り合いの人の手伝いをして日銭を稼ぐこともしているらしい。クリスと働いている記憶も思い出せる。
クリスに頼めば働かせてくれるだろうが、元の世界で数年間ニートだった俺の腰は重い。
「すみません! 弟を見ませんでしたか?」
「エミルくん? さぁねぇ。昨日家を出て行ったのは見たけど……」
結局、何もしないまま焚き火に当たっていると、そんな話し声が聞こえた。
どうやらエミルが昨日から帰ってきていないらしく、ベルギスは血眼になって村中を探し回っていた。
話を聞いた人たちは人数を集めてエミルの捜索を開始。
村は騒然としていた。
「エミル! 兄ちゃんが悪かった! お前ももう立派な戦士だ!」
「エミルくーん! いるなら返事してー!!」
ベルギスは忙しそうに村中を駆け回っている。
そこにはクリスも混じっていた。
困り顔であっちこっち走り回っている姿は可愛らしい。
「ちょっと! フェイも手伝ってよ! こんな時にも動かないなんて、もう! 信じられない!」
クリスを見ていると目が合って、キツく怒られた。
そうだよな。そうなるよな。
といっても、俺が全く慌てていないのには理由がある。
エミルが今いないのは確定イベントで、チュートリアルを終えた彼はこの世界に選ばれし者として精霊の世界に案内され、その精霊の試練とやらを受けている。
『エミルは今精霊界にいるから、そのうち帰ってくるよ☆』
なんて言ったところで絶対に信じてもらえないだろう。
それどころか、『フェイクラントがついに狂った』というレッテルを貼られてもおかしくない。
「わかった。俺はあっちの方を探してくる」
なので、探すフリをすることにする。
ちくしょう、腹が減ってるというのに。
「おーい、エミルー」
俺は心の中でため息をつきながらエミルを探し始めた。
絶対に居ないであろう川の中や、家の横に置いてあるツボを覗き込んだりしながら。
「ん?」
なぜかファンタジー世界にはよくあるツボを順番に覗き込んでいると、その一つにポーションの素材にもなる薬草があった。
「この位置にこれって……」
俺はゲームのアルティア・クロニクルでの金の稼ぎ方を思いだす。
基本的には魔物を狩るか、手に入れたアイテムを売るかだ。
アイテムはダンジョンの洞窟に宝箱があったり、特定の魔物からドロップしたり、あるいは町のいたるところに隠されているアイテムを収集したり…。
そして俺が今薬草を拾ったツボには、たしかにゲーム内でも同じ位置に同じものが隠されていた。
「これは……」
原作知識を利用できるかもしれない。
俺はエミルを探すフリを続けながら、ゲーム内のプレーリーにある隠しアイテムの場所を思い出す。
例えば民家のそばに置いてあるツボの中、川のほとりに意味深にある小さな穴の中。
……あった。
汚れてはいるが、食べると一時的に力のステータスが上がるレッドシード。
川のほとりの穴には、誰かが落としたのであろう小さな宝石がついている魔力の指輪。
思った通りだ。これらを売って金に換えるとしばらくは働かなくてもメシには困らないかもしれない。
ふっ、なんだ、余裕じゃないか。
ゲームで得た知識がこんなところで役に立つとは。
このまま世界を旅しながら伝説の武具が隠されてるダンジョンとかにもいずれ挑戦すると面白いかもしれない。
「さて、次は確かここに服の装備があったよな」
そんなことを考えながら、俺は次のアイテムを得るためにタンスを開ける。
「きゃあああああああ!」
「えっ!?」
土足で他人の家に入り込んだ俺はそこの住人の女性に容赦なく叫ばれる。
「何事だ!? ……お前、フェイクラント!? いつかやると思っていたがこんな白昼堂々と!!」
「えっあっ、いや、こ、これはその!!!」
戸惑っている間もなく血相を変えた門番にいとも容易く拘束され、連行された。
「ちょっと! フェイ、どうしたの!?」
連行される俺を見かけたクリスが慌てて俺の後を追ってくる。
いや、そりゃ考えてみれば犯罪だけどさ、止めてくれたっていいじゃんフェイの記憶よ──
---
そういうワケで、今に至る。
門番はため息をつきながらも、しかし強く怒ることはせずに俺に説教していた。
「金がないのもわかるケドよ、働きゃいいじゃねぇか。こんな小さい村で泥棒なんて、すぐにバレるだろ。しかもお前、エミルくんがいないって大変な時を狙って……最低だぞ?」
「おっしゃる通りです……。もうしません……」
「そ、その! きっとフェイはエミルくんを探すのに必死で! でもバカだから善悪のついてない子供みたいなもので! その、えっと…」
おい、フォローになってないぞ。
しかし、俺がこんなことをしてしまっても必死に助けようとしてくれているクリスは正直すごい。
感謝しなければ。
「はぁ……まぁ、実害は無いし、今回は大目に見てやるが、二度目はねえぞ。ちゃんとアンナさんとこ行って謝ってこいよ」
「はい……。ありがとうございます」
ゲームではタンスを調べても何も言われなかったから。
とかそんな言い訳などしない。
普通に考えたら確かに泥棒だ。
ゲームと現実は違うのだ。
あるいは、エミルは勇者だから許されるのかもしれないが…。
「ビルさん、エミルくんは村の外に出てないの?」
「あぁ、ずっと見ていたが、あの子が通った記憶はないな」
「そっか……」
俺の話が終わると、2人は再びエミルの行方について話し始めた。
うーん、恐らくだが、エミルはそろそろ帰ってきていると思う。
「一旦確認しに行かないか? 戻ってきているかもしれないし」
「そうね……。ちゃんと謝りに行ってからね!」
「あ、はい」
俺たちは詰所から外に出た。
釈放されたが、クリスはまだガミガミと俺に説教している。
悪いと思ってるよ。ただやっぱ勘違いするじゃん。
ゲームと同じ世界なら、ゲームで許されることをしても許されると思うじゃん。
曖昧な言い訳を続ける俺に、クリスは腕を組んで眉をひそめたままだ。
「本当にしっかりしてよ。村の中で悪いことしても、全部筒抜けなんだからね!」
「わかったよ……もうしないって」
「しょーがないなぁ、もう」
クリスはしばらく俺を睨んでいたが、やがて小さくため息をつく。
田舎あるあるというか、やはりこんな辺境の村では住人の行動は全部筒抜けらしい。
「お金がないなら……また前みたいに手伝いに来てくれてもいいのに……(ぼそ)」
「え? なに?」
「なんでもないわ! バカ!」
ツンデレとは素直にならない生き物なので難しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます