第13話 完璧な俺を完成させた

 最後に俺の目に留まったのは、この画面内で最も微妙でセンシティブな項目のひとつ——生殖器の調整だった。


「これ……どうするべきか。」


 一瞬だけ迷ったものの、結局、手を出さない選択肢なんて俺にはなかった。これだけ細かく設定できるなら、ここも完璧に仕上げておきたいというのが自然な流れだろう。


 まず、長さから調整を始める。スライダーをじっくり動かしながら最終的に選んだ数値は——18センチ。


「うん……これならバランスがいいな。」


 前世で読んだ調査データを思い返せば、この長さが満足度においてかなり高評価を得ていたことを思い出す。

 派手すぎる数値にしても現実味が薄れるし、実用性を考えるとこれが最適だ。


「これで“ちょうどいい”ってやつだろ。」


 次に、硬度の調整に進む。これに関しては迷いなんて一切なかった。スライダーを一気に最大値まで引き上げる。


「硬度が重要って、前世のBMC女性健康レポートにも書いてあったしな……」


 そう、確かそのレポートには、硬度は長さ以上に大事だと明確に記されていたはずだ。だが、ここで俺は選ぶのは片方だけじゃない——両方だ。


「どちらも手に入れる。それが俺の選択だ。」


 自分にそう言い聞かせながら、全ての調整を終えた俺は満足げに画面を眺めた。


「これならどんな場面でも……いや、どんな“勝負”でも負ける気がしないな。」


「うん、完璧だ。」


 俺は満足げに頷き、心の中で小さくガッツポーズを決めた。こういうチャンスは滅多にない。むしろ、こんな絶好の機会だからこそ、細かいところまで抜かりなく調整するべきだ。


 全ての設定が終わった後、俺は再度じっくりと自分のカスタマイズ内容を見直した。


 年齢、外見、気質、そして生理構造——どれを取っても、俺が思い描いていた理想の姿そのものだ。


「これで完成だな……」


 自分の設定に目を通しながら、自然と胸の中に込み上げる満足感を噛みしめた。


 今の俺は、単に無敵の力を持つだけじゃない。自分の中で描いていた完全無欠の自分像を実現させたんだ。


 次に俺が目を向けたのは、アイテム欄の設定だった。


 まず最初に手をつけたのは、当然ながら通貨の調整だ。


 一切の迷いもなく、金貨、銀貨、銅貨、それぞれを1億枚に設定。


「これで……俺はこの世界の歩く金庫だな。」


 画面に表示された桁違いの天文学的な数字を眺めながら、俺は満足げに口元を緩めた。この時点で、俺はゲーム内で富可敵国の存在となった。


 これだけの財産があれば、もはや何をするにも金の心配なんて一切いらない。


「城を買う?軍隊を雇う?それとも、金貨の山で敵を埋める?」


 考えるだけで笑いがこみ上げてくる。これほどの金額を持っていれば、どんな無茶なことでも実現できるのは明らかだ。


「いや、こんなに気持ちのいい数字、なかなか拝めないぞ。」


 そう呟きながら、画面に並ぶ1億という数字を見つめ、俺の心は歓喜に満ちていた。ゲーム世界での物質的な制約は、もはや完全に消え去った。


 次に進んだのは武器の選択だ。


 だが正直、この部分に関してはあまり興味が湧かなかった。というのも、今の俺にとって武器の攻撃力なんて完全に意味を成さないからだ。


 俺の現在のステータスは、どんな武器の性能をも遥かに凌駕している。たとえ管理者権限で手に入る最強武器を装備したところで、俺にとってはただの飾りでしかない。


 それこそ、「あればいいけど、なくても別に困らない」程度のものだ。


 だからこそ、今回は性能よりも見た目を重視して選ぶことにした。あれこれと画面をスクロールして眺めた末に、最終的に選んだのは伝説級武器【湖中剣】だった。


 この剣は一目見ただけで惹きつけられるような美しさがあった。


 細長く洗練されたフォルム、剣身からほんのり漂う湖のような青白い光——その優雅で高貴なデザインは、俺の新しく整えた外見とも絶妙にマッチしている。


「これだな。まあ、見た目重視で選んだだけだけど。」


 俺は画面を見つめながらそう呟き、軽く頷いた。この剣は、戦いのために使うというよりも、むしろ“装備している姿を見せる”ための武器だ。


「うん、これなら十分だろ。どうせ見栄えだけの問題だしな。」


 防具については……


「どう見た目が良いか、それだけだ。」


 俺は防具の選択画面を眺めながら、そんなことを考えていた。


 正直な話、防具の性能なんて一切関係ない。俺の現在のステータスとスキルがあれば、防御力なんていう概念自体が無意味だからだ。

 何を装備していようが、そもそも攻撃を受けることすらなさそうだし、仮に攻撃されたとしても、それを凌駕する絶対的な耐久力を俺は既に手にしている。


 だからこそ、ここでも重視したのはデザインだった。


 見た目がかっこいいかどうか、それが全て。画面をスクロールしながら、俺は美しいデザインの防具を吟味していく。


 最終的に選んだのは、デザイン性が際立つ軽装鎧だった。


 この防具は軽量で動きやすく、それでいて洗練されたデザインが目を引く。重々しくゴテゴテした装備ではなく、スタイリッシュでスマートな印象を与えるものだ。全体的にスリムなシルエットで、俺の新しい外見にも見事にマッチしている。


「これだな……完璧だ。」


 防具を装備した姿を確認しながら、俺は満足げに頷いた。


 この防具を纏った俺の姿は、単に“強そう”というだけでなく、どこか洗練された雰囲気と風格が漂っていた。これで、見た目と実力のどちらも申し分のない状態になったわけだ。


「強さだけじゃなく、見た目も完璧……これこそ最高だな。」


 そう呟きながら、最終的に調整し終えたアイテム欄を眺めた。装備品も、能力も、すべてが理想を超える仕上がりになっている。


「これならどこに行っても注目の的だな……」


 心の中に湧き上がる満足感を噛みしめながら、俺は画面を閉じた。この瞬間、俺はただ“強い”だけの存在ではなく、見た目も含めて完璧な俺を完成させたのだ。


 すべての属性の調整が終わった後、俺は全てのアイテムを物品欄に収め、システムUIを閉じた。そして、大きく息を吐きながら、柔らかな布団の中に体を沈めた。今日はもう、しっかり休もう——そんなつもりだった。


 だが、身体は布団のぬくもりに包まれているというのに、心の中は未だに燃え盛る炎のように興奮が収まらなかった。


 目を閉じても、頭の中に浮かんでくるのは、さっきまでいじっていたシステムの画面。

 圧倒的な数値、強烈なスキル効果、そしてアイテム欄の驚くべき変化……それらすべてが洪水のように意識を押し流し、俺を高揚させ続けていた。


 たった数分前の、不現実的なほどの喜びと達成感。あの感覚が胸を締め付け、何度も寝返りを打つが、どうにも眠気が訪れない。


「……ダメだ、無理。」


 俺はため息をつき、布団をめくると静かに起き上がった。


 隣人のヘイラさんを起こしてしまわないよう、極力音を立てないように気を配りながら、そっと足音を忍ばせる。

 踵を浮かせ、慎重に部屋を抜け出した俺は、暗闇の中、手探りで階段を進み、屋上へと向かった。


 夜風は骨身に染みるほど冷たかった。だが、俺はただ一枚のパンツを履いただけの姿で、無防備なまま屋根へと這い上がった。その寒さをまるで意に介することもなく。


 屋根の縁に腰を下ろし、ふと顔を上げる。目の前には、無数の星が夜空に煌めいていた。

 深い漆黒の天幕に散りばめられた星々は、どこか手が届きそうで、それでいて果てしなく遠い。


 風が唸りを上げながら俺の肌を撫でていく。吹き抜ける風は確かに冷たく、普通なら震えが止まらないほどの寒さだ。

 だが、不思議なことに、今の俺にはその冷たさが全く感じられなかった。

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