第11話 基本的にもう無敵だよな....

「これ、どんだけ量多いんだよ……誰が全部読めるんだよ!」


 思わず声に出してツッコミを入れながら、俺はスキル一覧を適当に何ページかめくってみた。だが、結局、深く掘り下げる気力は湧いてこなかった。説明文のボリュームに圧倒されて、完全にお手上げ状態だ。


 幸い、スキル画面には便利なフィルタ機能がついていた。俺は迷わずそれを開き、分類をざっと確認する。


 狙いは明確だ——シンプルで強力、しかも即効性があるもの。今は細かいシステムやメカニズムを理解している場合じゃない。ここで俺が欲しいのは、とにかく派手でわかりやすい攻撃力だ。


 攻撃系スキルのカテゴリに絞り込むと、画面に表示されるリストが一気に整理された。その中で、俺の目を引いたのは、シンプルでありながらインパクト抜群の2つのスキルだった。


 名前を見た瞬間、その短く鋭い響きに心を掴まれた。説明文なんか読まなくても、「これ、ヤバいに違いない」と直感でわかる。


 最初に目を引いたスキルは、【審判】だった。


 俺は興味津々でそのスキルをタップし、詳細説明を開いてみた。そこに記載されていた効果は、驚くほどシンプルで、そしてあまりにも強烈だった。


 ——指定対象を審判し、即座にその生命を剥奪する。対象が非生命体である場合、その構造を完全に破壊する。


「……これ、やりすぎだろ!」


 思わず口に出してしまった。だが、その声には驚き以上に、抑えきれない興奮が混じっていた。


 スキルの内容はまさに究極。余計な演出や煩雑な手順を一切省き、ただ一言で終わる。

「お前はここで終わりだ」——それだけで、対象がこの世から消える。それが生命体であれ、無機物であれ、区別なく。


 こんなにも無駄のない、究極に洗練されたデザイン。まるで「攻撃スキルの完成形」とでも言える存在だ。


「いや、これは……最高すぎる。」


 俺の目は輝き、口元には思わず笑みが浮かんだ。こういう潔いデザインのスキルには、理屈抜きで心惹かれるものがある。余計な装飾もなく、ただ結果を求める。


 次に目を引いたのは、【魂震(ソウルシェイク)】というスキルだった。


 スキル説明は、先ほどの【審判】ほど短くはないものの、十分にシンプルだった。


 ——精神攻撃を用いて対象の魂を震撼させ、強制的に昏迷状態にする。


「……これ、いいじゃん!かなり使える!」


 思わず頷きながら、画面を見つめた。その瞬間、俺はこのスキルのポテンシャルを直感的に理解していた。


 戦闘中、相手を確実に足止めするコントロールスキルとしては申し分ない。それだけでなく、厄介なNPCに絡まれたときにこれを使えば、問答無用で黙らせることだってできるだろう。


 何より、精神攻撃という響きが妙に心をくすぐる。物理的なダメージを与えるだけのスキルよりも、一段と「高級感」があるように思える。

 単なる力技ではなく、スマートに相手を無力化する……そんなイメージがこのスキルにはあった。


「うん、これも決まりだな。」


 満足げに呟きながら、俺はそのスキルを選択した。


 他にもスキルリストには、名前だけで強そうなものがまだまだ並んでいた。だが、それらを選ぶ気力はなかった。


 考えただけで、またあの冗長な説明文を読み漁らなければならないと思うと、頭がズキズキしてくる。


 次は防御系のスキルだ。


 攻撃スキルを選ぶときとは違い、防御スキルを選ぶときの俺は特に慎重だった。なにせ、こればかりは自分の命を守るためのものだ。適当に選んで済ませるわけにはいかない。


 今の俺は、ほぼ無敵に近い存在だとはいえ、「用心に越したことはない」という言葉が頭をよぎる。防御力に関しては、どれだけ積み重ねても損はない。むしろ、備えすぎることに悪いことなんて一つもないのだ。


 そうして、まず俺が選んだのは、名前からして効果が一目瞭然のスキルたちだった。


【物理免疫】

【魔法免疫】

【精神干渉免疫】

【状態異常免疫】

「……完璧じゃん!」


 これらのスキルだけで、ゲーム内のほぼ全ての攻撃手段や妨害系のスキルが通用しなくなるのは明らかだ。

 物理攻撃も、魔法攻撃も、精神的な影響も、さらには毒やデバフといった状態異常も全て無効化。


 画面を想像するだけで、思わず口元に満足げな笑みが浮かぶ。


「これこそ、まさに真の無敵ってやつだろ?」


 防御スキルを一通り選び終わった俺だったが、次の瞬間、またしても目を引くスキルを発見してしまった。その名も——【レインの祝福】。


 一見、地味に思えるそのスキルだが、効果の説明を読んでみた瞬間、俺はその実用性に驚いた。


 ——常に健康な状態を維持する。風邪や病気など、あらゆる健康被害を無効化する。


「これ……地味にスゴくないか?」


 そう呟きながら、俺はすぐにスキルをリストに追加した。確かに、攻撃や防御の派手なスキルに比べれば目立たないかもしれない。

 だが、実際のところ、これほど実用性の高いスキルはなかなかないだろう。


 だって、どんなに無敵に近い存在でも、もし日常的な体調不良や病気に悩まされるなら、その時点で無敵なんて意味を失う。

 健康こそ最強の防御——このスキルを手に入れることで、その確信が強まった。


「これ、地味に便利すぎて……生活スキルの中で最強かもしれないな。」


 満足げに呟きながら、俺はこのスキルを自分のリストに登録した。


 すでに俺は、攻撃も防御も完璧に揃え、さらには体調管理まで徹底した状態になっている。これだけでも十分すぎるほど強いが、さらにそこに約100万ものHPが加わるわけだ。


「これ、もう死ぬほうが難しいな……」


 とはいえ、俺は念には念を入れることにした。いくら完璧に思える状態でも、もし何かしらの不可抗力に遭遇したらどうする?何か予期せぬバグに巻き込まれたらどうする?そんな最悪のシナリオを考えた結果、もう一つだけ保険をかけることにした。


 俺が選んだのは、【フェニックスの転生】というスキルだ。


 その効果は至ってシンプルでありながら、究極とも言えるものだった。


 ——死を超越する。どれだけ致命的なダメージを受けても、一日以内に肉体を完全に再生し復活する。


「……これ、命硬すぎだろ。」


 画面を見つめながら、俺は思わずそう呟いた。事実、このスキルを取得することで、「死」という概念そのものを無効化することができる。もはや、「万が一の事態」すらも恐れる必要がなくなったのだ。


 このスキルは、いわば俺自身に永遠の命を与えるようなものだ。生死のリスクが完全に消滅するというのは、圧倒的な安心感をもたらしてくれる。


「これで、もはや何が起きても大丈夫だな。」


 選択を終えた俺は、満足げにスキル画面を閉じた。


 攻撃、守備、健康、そして復活まで——どれをとっても完全無欠。これ以上何かを付け足す必要があるだろうか?そう思えるほど、完璧な状態に仕上がった。


 スキル選びには思った以上に時間がかかった。やはり、防御スキルには細心の注意を払った分、選択に慎重になりすぎたのだろう。それでも、最終的には納得のいく形で決着をつけることができた。


 スキル選択を終えた俺は、ベッドのヘッドボードに深くもたれかかり、長い息を吐いた。


「これで、基本的にもう無敵だよな……」


 自分にそう言い聞かせるように呟きながら、自然と口元に笑みが浮かんでいた。これ以上の安心感はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る