第10話 データの修正を始める
しばらくの間、俺は完全に固まっていた。まるで時間が止まったかのように、狂ったように現れる無数の仮想ウィンドウをただ呆然と見つめるだけで、頭の中は真っ白だった。
だが、数秒後、ようやく遅れて反応がやってきた。感情が堰を切ったように一気に溢れ出し、まるで火山の噴火のように全身を駆け巡る。
「うおおおおお!!!?」
思わず喉から叫び声が飛び出した。興奮と歓喜が混じったその声は、夜の静寂を破る勢いだった。
俺は興奮のあまり、ベッドから跳ね起き、全身を震わせた。その瞬間、信じられないほどの高揚感が足元から頭の先まで駆け抜け、息が荒くなるほどだった。
……けど、待て。
今って深夜じゃねえか!?
俺は急いで口を押さえた。まるで風船が一気にしぼむようにベッドに倒れ込み、心臓の高鳴りを抑えるように小さく息をつく。そして、恐る恐る目をドアの方へ向けた。
もし隣の部屋のヘイラさんを起こしてしまったら、後でどれだけ謝っても足りないぞ……!
俺は息を殺し、耳を澄ませた。外の気配を注意深く伺う。しばらくしても何の物音も聞こえず、隣のヘイラ夫人が起きてくる気配もなかった。ほっと胸を撫で下ろしながら、手で押さえていた口をそっと離す。とはいえ、胸はまだ大きく上下し、まるで長距離マラソンを終えたばかりのように心臓が暴れている。
高鳴る気持ちをどうにか抑えようと、俺は布団の上にどっかりと腰を下ろし、掛け布団を腰まで引き寄せた。深呼吸を繰り返しながら、意識を徐々に落ち着かせる。
そして、再び視線を眼前の光景へと戻した。部屋中に浮かぶ無数の仮想ウィンドウ。淡く揺れる光が、まるで俺の行動を待ち構えているかのように見える。
気持ちを切り替え、意を決してウィンドウを一つ一つ確認していく。
視界の中を次々と流れる情報——おなじみの属性欄、レベル一覧、スキルツリー……見慣れたゲームUIが一面に広がっている。
それらが驚くほど鮮明で、まるで俺を挑発しているかのようだ。
だが、それを見た瞬間、俺の指先が微かに震え始めた。
俺の全てのステータスが……自由に変更できる状態になっていた!
レベルはもちろん、力や敏捷といった基本的な属性もすべて、横に「編集」ボタンがキラキラと光っている。それらのボタンはまるで俺に「さあ、好きなようにいじってみろ」とでも言っているかのようだった。
それだけじゃない。驚くべきことに、常識外れの項目までもが堂々とリストに並んでいた。
年齢? 調整可能。
容姿? 細かい微調整から完全リメイクまで自由自在。
財産? ゼロをいくつでも並べて天文学的な数字にすることだってできる。
まさに、全能感に浸れる内容だ。
だが、俺の視線がある項目に移った瞬間、思わず動きが止まった。そして次の瞬間——笑いを堪えきれず、思わず吹き出しそうになった。
生殖器の長さまで調整可能だと!?
俺はその項目を見た瞬間、思わず口元がピクピクと引きつった。笑いを必死に堪えたものの、あまりのシュールさに危うく吹き出しそうになった。
目の前に堂々と表示されたこの「謎すぎる選択肢」をじっと見つめ、複雑な感情が胸を駆け巡る。耐えきれず、思わず低く呟いてしまった。
「……これ、どういうことだよ。誰だよ、こんな項目を思いついたやつは……どんだけ頭ぶっ飛んでんだよ、このプログラマー。」
呆れながらも、妙に笑えてくる自分がいた。
だけど、その一方で、手のひらにはじんわり汗が滲んでいる。現実離れしたこの状況が、どこか夢の中にいるような感覚を与えてくる。
深く息を吸い込み、落ち着こうと胸を膨らませる。そして、拳をきつく握りしめた。
画面を見つめる俺の目は、いつの間にか興奮に輝き始めていた。
ついに……ついに成功したんだ!
しかし、さらに画面をスクロールしていった俺は、思わず動きを止めた。目が見開かれ、驚きのあまり目玉が飛び出しそうになる。
「性別まで……変更できるのか?」
俺の口から漏れたその言葉は、震えるように低く、信じられない感情を隠しきれていなかった。
その瞬間、頭の中にありとあらゆる奇妙な考えが洪水のように押し寄せてきた。
ありえない妄想、荒唐無稽なシナリオ、そして……口に出すのもはばかられるような少々“不適切”なアイデアまで、次々と浮かび上がってくる。
「いやいやいや!」
俺は慌てて咳払いをしながら、頭をぶんぶんと振った。あまりに不謹慎な妄想を振り払うべく、手で顔をバシバシ叩きながら自分に言い聞かせる。
「落ち着け、冷静になれ!今はそんなことを考えてる場合じゃない!」
何度か深呼吸を繰り返し、ようやく荒ぶる思考を抑え込むことに成功した俺は、慎重に画面へと意識を戻した。
そして、もう一度初期の属性画面を開き、整理し直しながら、冷静にデータの修正を始めることにした。
最初に手を付けたのは、レベルだった。俺は迷うことなくスライダーを思い切り上まで引き上げ、一気に100レベルまで設定した。どうやらこれが上限らしく、それ以上には調整できないようだ。
しかし、スライダーが「100」で止まった瞬間、俺の目の前にある属性パネルが一気に激変した。
レベルアップに伴い、俺の基礎ステータスがとんでもない勢いで跳ね上がり始めたのだ——
力、敏捷、知力の3つの主要ステータスが、それぞれ1万を超えている!?
「……いやいや、これはさすがにやりすぎだろ?」
俺は思わず画面に向かって呟いた。視線を属性パネルの隅々まで走らせながら、信じがたい変化に目を見開く。数字が一気に膨れ上がるそのスピード感は、あまりに圧倒的で、正直、頭が追いついていなかった。
だが、さらに驚かされたのは、基礎属性が爆発的に増加したことで、それに伴う派生ステータスも軒並み異常な値に膨れ上がったことだった。
ちらりと視界の片隅を確認した瞬間、俺の目に飛び込んできたのは——
10万の攻撃力!?
俺はしばらく呆然と数字の羅列を眺めていたが、次の瞬間、思わず笑い声を漏らしてしまった。
「これ、もう継続する必要あるのか?一拳で全部吹っ飛ぶじゃん。誰が俺に逆らえるんだよ?」
その声には、抑えきれない興奮と高揚感がたっぷりと滲み出ていた。
そうと決まれば、属性のさらなる調整なんて不要だ。今の俺は、もはや“無敵”と呼ぶにふさわしい存在。
これ以上、精密な数値設定や微調整なんてものに時間を割く必要はない。小数点までこだわるような調整は、ただの無駄に思えた。
俺は果断に属性画面を閉じ、胸の中に渦巻く興奮を抑えることができずにいた。心臓が早鐘のように鳴り、体中の血液が沸騰するかのように熱くなる。
「さて、次は……」
低く呟きながら、自然と口元が笑みの形に歪む。
俺の指先は、画面上のスキル調整ボタンへとゆっくり滑り込んでいった。
「今度は……他の“遊び場”を覗いてみるか。」
次はスキルだ。
スキル画面を開いた瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは、びっしりと並んだ膨大なスキルの名前だった。その数、あまりにも多すぎて、一瞬で目がチカチカし始める。
まるで情報の洪水だ。無数のスキルが一斉に押し寄せ、画面いっぱいに広がっている。
しかも、各スキルの後ろには、これまた信じられないほど詳細な説明が付いている。まるでゲーム内のwikiページがそのまま画面に埋め込まれているようだ。
効果、メカニズム、範囲、発動条件、制限事項……それらすべてが、恐ろしいまでに細かく記載されている。
1つ1つが小論文ばりのボリュームで、スキルの全貌が余すところなく解説されている。
俺はいくつか説明文を拾い読みしてみたが、ものの数行で頭がズキズキし始めた。文字量があまりにも多く、目が追いつかない。
「……いや、これ、読むだけで気が遠くなるんだが?」
自分に向かってそう呟きながら、俺は額に手を当てた。あまりの情報量に、軽い目眩すら覚え始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます