第2話 俺の『性経験』、どこいったんだよ!?

 こうした細かな描写や日常の様子は、俺の中に一種の興奮を呼び起こした。

 これほど“本物”のような人たちと共に生活できるというのは、たとえ地球から離れ、元の世界から遠ざかってしまっても、孤独を感じることがない。


 毎日、村人たちが忙しそうに働いている姿を見たり、彼らが何気ない会話をしているのを耳にしたり、時にはその輪に加わることすらできる。

 その瞬間だけは、まるで俺自身もこの村の一員になったかのような錯覚を覚える。そして、この感覚が意外にも心を温めてくれるのだ。


 一方、俺は、いわゆる熟練ゲーマーだ。ゲーム内の世界で「バグ」を発見し、それを利用してルールを抜け道するのが俺の得意技だった。

 いわば「プログラムの隙を突く遊び」が大好きだったわけだ。


 しかし、今いるこの世界では事情がまるで違う。

 ここの人々は、どうにも「ゲームのルール」に縛られているようには見えない。むしろ、完全に自由で、自然に生きているのだ。


 俺が試しにゲームのように「バグ探し」のような行動を取ると、彼らは決まって奇妙な反応をする。


 例えば、突然意味のない行動を取ってみたり、不自然な話題を持ちかけたりすると、彼らは戸惑いの表情を浮かべたり、まるで俺が何かおかしなことをしているかのように首を傾げるのだ。


 どうやら、これは単なるゲーム世界の「人とNPCの会話」ではないらしい。それどころか、もっと複雑で、より現実に近い何かが存在しているように感じる。


 彼らの言動や反応を見るたびに、俺は次第にある疑念を抱き始めた。

 本当に彼らは「プログラムで生成された存在」なのだろうか?

 もしかすると、これはただのゲームではなく、本物の世界なのかもしれない……そんな可能性すら頭をよぎるようになった。


 そう考えると、ゲームを始める前にもっとちゃんと攻略情報を調べておくべきだったと、今さらながら後悔している。


 この世界に来てからの間、俺は決してぼーっとしていたわけではない。むしろ、毎日欠かさず、一定の時間を使ってゲームのUIインターフェースを徹底的に調べるようにしていた。


 この世界で生き抜くためには、自分の能力やこのシステムのルールをしっかり把握することが何よりも重要だ。


 ┌────────────キャラクター属性────────────┐

 │レベル: 1 職業: 無し│

 ├─────────────────────────────┤

 │[力: 1]│

 │├─物理攻撃力: 10 ├─重量上限: 0/20│

 │├─HP上限: 100   └─ノックバック耐性: 0%│

 │└─HP回復: 0.1/秒│

 ││

 │[敏捷: 1]│

 │├─攻撃速度: 1   ├─移動速度: 1.1│

 │├─回避率: 5%   ├─クリティカル率: 1%│

 │└─命中率: 50%│

 ││

 │[知力: 1]│

 │├─魔法攻撃力: 0 ├─魔法耐性: 0%│

 │├─MP上限: 50   ├─クールダウン短縮: 0%│

 │└─MP回復: 0/秒│

 └─────────────────────────────┘


 最も重要なインターフェース、それは間違いなくステータス画面だ。この画面では、俺の基本能力が非常に分かりやすく表示されている。

 主な属性は大きく3つに分類されており、それぞれの項目はさらに5つの詳細なステータスに分かれている。


 例えば、力は物理攻撃力や重量上限といった身体的な強さを表し、敏捷は攻撃速度や移動速度といった機動力に関係する。そして、知力はその名の通り魔法攻撃や魔法耐性といった魔法能力を司るステータスだ。

 こうした3つの大きなカテゴリが、俺の戦闘能力や生存力を決定付けることになる。


 だが、このステータス画面以外にも、もう一つ重要な画面がある。それが情報画面だ。この情報画面は直接的に戦闘力に関わるものではなく、どちらかと言えば記録簿のような役割を果たしている。


 ┌────────────基礎情報────────────┐

 │名前: ニゲン・オリヴィエラ レベル: 1

 │HP: 100/100 MP: 50/50

 │経験値: 0/100

 ├───────────才能レベル───────────┤

 │[戦闘才能]

 │武器制御: F級

 │魔法制御: E級

 │身体能力: C級

 │[生活才能]

 │採取: C級

 │料理: B級

 │鍛冶: C級

 │錬金: F級

 ├───────────容姿レベル───────────┤

 │顔立ち: C級

 │体型: B級

 │雰囲気: D級

 │総合魅力: C級

 ├───────────ステータス────────────┤

 │[性的経験]

 │初体験: 童貞(未経験) 回数: 0

 │最近の記録: 無 関係相手: 0

 └─────────────────────────────┘


 情報画面の一番下にスクロールするたび、俺はつい顔が熱くなってしまう。


 この項目を初めて目にした時、正直言って思わず固まった。まさかこんな情報まで表示されるなんて想像もしていなかったし、その内容にも驚かされた。


 だって、「初体験: 童貞(未経験)」なんて書かれてるんだぞ!?


 地球にいた頃の俺は、既にそんな「童貞」からはとっくに卒業していた。むしろ、ちょっと風流を楽しむ程度には経験があったと言ってもいい。

 それなのに、このゲームの世界に来た瞬間、俺の過去の記録が完全リセットされてるだなんて……!


(おいおい、俺の地球での『性経験』、どこいったんだよ!?)


 内心ツッコミを入れずにはいられない。こんなの、どう考えてもおかしいだろう!


 だが、まあ……文句を言ったところでどうにもならないのは分かっている。

 しばらくは不満でブツブツと呟いていたものの、すぐに気持ちを切り替えた。


 だって、これって結局ただのデータに過ぎないし――何より、これはいくらでも更新可能な項目だからだ。


 そう、この世界は剣と魔法に満ちた冒険の地。新しい出会いや刺激的な出来事が俺を待ち受けているはずだ。

 ここで一生「童貞」なんてタグを背負って生きるなんてこと、絶対にあり得ない!


(すぐに卒業してみせるさ……!)


 今の俺の能力値は、「普通」どころか「低すぎて哀れ」と言ってもいいかもしれない。けれど、俺はそれを特に気にしていない。いや、むしろ焦りすら感じていない。


 なぜなら、俺は数え切れないほどのRPGゲームをプレイしてきたベテランだからだ。経験上分かっていることがある――どんなに最悪なスタートでも、正しい情報と適切なルートさえ見つければ、いくらでも挽回できる。ゲームの醍醐味ってのは、そういうもんだろう?


 たとえ、今の能力値が底辺スタートでも問題ない。逆に、こういう状況から這い上がる方が俺の性に合っている。


 それに、今の環境を考えれば、そこまで悪い状況ではない。


 ここは、いわゆる「初期エリア」だ。ゲーム的に言えば、初心者プレイヤーに優しく設計された安全なスタート地点。


 村全体は穏やかで静か、村人たちは親切そのもので、村の外に現れる魔物も狼やイノシシのような低レベルのモンスターばかりだ。はっきり言って、命の危険を感じるような相手ではない。


「こういう平和な環境で始められるだけ、俺は運が良い方だな。」


 ここには、命を懸けた戦いや一瞬で心が折れるような絶望的な展開は存在しない。むしろ、初心者にとってはこれ以上ないほど優しいスタート地点と言える。







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