ゲーム世界中管理者権限で無双します!〜管理者権限を持つ「システム」としてゲーム世界に存在していることに気づく。プレイヤーだった私が、今や世界を自由に操る力を手に入れた。
苦痛の仮面
第1話 ゲームの世界に転生して
これは、俺がゲームの世界に転生してから三十日目のことだ。
そう、俺は剣と魔法が交差するRPGゲームの世界に、本当に生身で飛ばされてしまったのだ。
正直に言えば、こんなこと冗談みたいな話だと思うだろう。俺だってそう思いたい。しかし、これは現実だ。
あの日、俺はゲームを始めたばかりで、まだチュートリアルクエストをこなしている最中だった。
突如として頭がクラクラし、視界が急に歪み始めた。そして次に目を開けたとき、そこは全く知らない世界だった。
元々、俺は地球のどこにでもいる普通の人間だった。毎日会社と家を往復するだけの単調な生活を送り、たまにゲームをして暇を潰すくらいの、平凡そのものな人生だ。
俺はツワル大陸と呼ばれる、この広大で未知の土地に立っている。剣と魔法が支配するRPGゲームの世界、数多の人々と、そして奇妙な幻想生物たちが生きる場所だ。
もっと具体的に言えば、俺が今いるのはツワル大陸の北方辺境に位置する小さな村、「マセル村」というところだ。
この村の通りは粗雑な石が敷き詰められ、数軒の木造家屋が点在している。その周囲には荒涼とした畑が広がり、さらに遠くにはそびえ立つ山々が薄い霧に覆われているのが見える。
冷たい風が一陣吹き抜け、俺は思わず腕を擦り合わせた。北方の気候はなんとも厳しい。特に、南方出身の俺にとっては、これほどの寒さは到底慣れそうにない。
俺の突然の登場は、当然ながら村人たちの注目を集めることとなった。
マセル村のような人口の出入りが極めて少ない場所では、普段から一人増えたり減ったりするだけで即座に気付かれる。
それに加えて、俺のように見慣れない奇妙な服を着て、困惑した表情を浮かべている新顔となれば、なおさら目立つのも当然だ。
外部からの人間というのは、彼らにとってはほとんど珍しい出来事なのだろう。最初、村人たちは遠巻きに俺を警戒するような視線を向けてきた。
しかし、それも束の間のことだった。やがて彼らの素朴で温かい本性が勝り、徐々にその緊張感は解けていった。
そんな中、村長が直接俺の前にやってきた。
彼は白髪混じりの髭を蓄えた老人で、歳はかなり重ねているはずだが、背筋はしっかりと伸び、どこか精悍な雰囲気を漂わせていた。その村長が穏やかな声で俺に尋ねてきた。
俺は、自分がこの世界に来た経緯など到底説明できるはずもなく、適当な「放浪の旅をしていた」という曖昧な話でごまかすことにした。
俺の不自然さがどこまで誤魔化せたのかは分からない。だが、村長はしばらく黙って俺の話を聞いた後、小さく息をつき、静かにこう言った。
「かわいそうに……」
その一言には、同情とも哀れみとも取れる優しさが込められていた。
その後、村人たちはなんと、俺のために一つの空き家を用意してくれた。それは確かに簡素で、特別な設備があるわけでもないが、風を凌ぎ雨を防ぐには十分な場所だった。
それだけではなく、彼らは交代で俺のもとにパンや干し肉、そして温かいスープを持ってきてくれたのだ。
ただでさえ住む場所があることに感謝しているのに、食べ物まで無償で提供されるとは……この状況には驚きと感動しかなかった。
この村の人々は、本当に心優しい人たちだと実感した。
だが、その穏やかな感情の裏で、俺は自分が抱える“特別な事情”を忘れることはできなかった。
そう、俺には他の人々とは明らかに異なる“特殊な力”がある。
この世界に転生してなお、俺はどうやら“プレイヤー”としての能力をそのまま引き継いでいるらしいのだ。
例えば、ゲームをプレイしていた頃とまったく同じUI(ユーザーインターフェース)をこの世界でも開くことができる――
それを発見したときの興奮は言葉にできないほどだった。
自分のステータス画面、インベントリ、スキル欄、それにクエスト欄まで——そういったお馴染みの機能が、この世界でも全て揃っているのだ。
しかも、それらの表示は、まるでゲーム内で見ていた時と寸分違わない。
驚くべきことに、それらはただ心の中で軽く思い浮かべるだけで、まるでホログラムのように目の前に浮かび上がる。
どれも信じられないほどに鮮明だ。
例えば、ステータス画面には自分のレベルや各種パラメータが事細かに記されているし、インベントリには今のところ簡素なアイテムがいくつか入っているだけだったが、それでも「手ぶら」ではないという安心感がある。
スキル欄はほとんど空っぽだったが、そこに表示された空き枠が、未来への希望を感じさせてくれる。
そして、最も気になったのはクエスト欄だ。そこに唯一表示されていた任務は、こう書かれていた。
「この世界を探索し続けてください」
……何とも言えない曖昧な指示だった。
「探索し続けてください」だって?
いや、そんなことは言われなくても、この状況ではどうにかして生き抜くしかないんだから探索するに決まっている。
だが、それ以上の説明もなく、この一文だけが提示されているというのは、やっぱりどこか釈然としないものを感じる。
予想通り、このインターフェースはどうやら俺にしか見えていないらしい。
その仮説を確かめるため、俺はわざわざ村人たちの前で実験をしてみることにした。
「空中に浮かぶパネル」を彼らに見せるべく、手を大きく振り回しながら、わざとらしく「操作」を指でタップする仕草をしてみせた。
視線を釘付けにするために、わざわざ手元の動きに全力で集中させるような動作も加えた。
だが――村人たちの反応は、俺の期待とは全く違っていた。
一瞬、彼らはぽかんとした表情を浮かべたものの、その後はみんな揃って大笑いし始めたのだ。
「おいおい、まさか寒さで頭までやられちまったのか?」
「見ろよ、手を振り回して何してんだ?」
村人たちは口々にそんなことを言いながら、俺を指差して笑い転げる。中には笑いすぎて腰をかがめ、腹を抱えている人までいた。
だが、その嘲笑が俺の心に刺さることはなかった。むしろ――不思議なことに、俺の胸の内には妙な高揚感が湧き上がってきたのだ。
これで一つの事実が証明された。俺はこの世界で唯一の存在なのだ。たぶん....
俺が持つこの能力は、この世界の人々には理解することすらできない。つまり、俺はこの世界の“ルール”から外れた、特別な存在だということだ。
そう思った瞬間、自然と口元が緩み、笑みがこぼれた。村人たちにとって俺は、ただの“哀れでちょっと変わった流浪者”に過ぎないだろう。けれど、そんな彼らには分かるはずもない。
俺は知っている。この世界で俺が持つ力こそが、すべてを変える始まりになるということを。
この世界に来てからの三十日間、俺は村人たちの行動や振る舞いを密かに観察し続けてきた。
正直に言うと、彼らの様子は俺の想像を遥かに超えていた。最初、俺はこの村の人々も、ゲームのNPCみたいに固定されたスクリプト通りに動く存在だろうと勝手に思い込んでいた。
例えば、「こんにちは、冒険者さん!何かお手伝いしましょうか?」とか、「最近外は物騒ですよ。モンスターに気をつけて!」みたいな、よくある機械的な台詞を繰り返すだけの存在だと。
しかし――実際には、ここにいる村人たちはそんなNPC的な存在とは程遠かった。むしろ、彼らは本当に生きているかのように、血が通い、感情豊かに動いていた。
彼らは天気が悪い日には気分を落ち込ませるし、畑で作物がうまく育たないと、頭を抱えたり、ため息をついたりする。
些細なことで口論を始めることもあれば、日が暮れた後、誰かが口ずさむ懐かしい歌をきっかけに、笑い声をあげながら集まることだってあるのだ。
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