第11話 今後
ポーションはかなりの金額で売れてしまって、私の手元には金貨が転がり込んできた。町娘時代でも見ることのなかった金貨の枚数に、思わず卒倒してしまいそうになってしまう。
「こ、こんなにいいんですか?」
「相場を考えればこれで適正なんだ。どろどろの薬草の苦みが残っている低級のポーションですら銀貨一枚だからな。それより等級が高くて品質の良いポーションなら、一個あたり金貨一枚でも安いくらいだ」
「ふえぇぇ~……」
とんでもない金額が手に入ってしまって、私は現実を受け入れられずにいた。
持ってきたポーションに作ったポーション、全部で七個が自警団に買い上げられた。手元には金貨七枚が手に入ったけれど、これで何をしよう。
話もひと通り落ち着いたので、私は今はクルスさんと二人っきりになっている。ひとまずは今後のことを話し合うためだった。
「そうだな、まとまったお金も入ったところだ。見たところメイド服一着しか持っていないようだし、適当に服を見繕うかい?」
「え、よろしいんですか?」
クルスさんの申し出に、思わず声を上げてしまう。
「ああ、その一着だけっていうのも、女性からしたら心もとないだろう。あと、君さえよければマシュローに家を構えてもいいと思うんだが、どうだろうかな」
次々と提案してくるクルスさんだけれど、服はいいとしても家に関しては私はすぐに首を横に振った。
「断る理由を聞かせてもらってもいいかな」
「はい。私が魔族ということが一つです。私を連れてきたということで、クルスさんにもご迷惑がかかる可能性がございます」
一つ目の理由を聞いて、クルスさんは納得しているのか頷いている。
「それともう一つは、あの家でございます。主を失った今、あの家の今の主人は私なのです。だというのに、すぐにあの場所を離れてしまうのは、望ましくないかと考えます」
「……君の周りを浮いていた、あの魔導書たちか」
「……はい」
小さく頷くと、クルスさんは考え込み始めてしまった。何か変なことを言ったりしてしまっただろうか。
「私は魔族の屋敷から追い出されましたし、魔族という立場である以上、人間とも馴染めません。ですので、あの家でひっそりと暮らしているのが一番なんです」
気にはなったものの、私はもう一つの理由を話す。すると、クルスさんの表情が変わったように見えた。
「魔族の、屋敷……?」
凄まじい目をして、私を睨み付けている。
どうやら、魔族の屋敷というのは言ってはいけない言葉だったようだ。
次の瞬間、私は椅子から立ち上がったクルスさんに力いっぱい肩をつかまれていた。
「詳しく聞かせてくれ、頼む」
「い、痛い。痛いですよ、クルスさん」
私の方に、クルスさんの指が深く食い込む。その力の強さに、悲痛な叫びをあげてしまった。
私が本気で痛がっていることに気が付いて、クルスさんは慌てて手を放す。
「す、すまない。つい、興奮してしまったようだ」
少し落ち着きを取り戻したらしく、私に謝るとクルスさんは大きく深呼吸をしながら椅子に座っていた。
「魔族の屋敷について、詳しく話を聞いてもいいかな?」
「は、はい。どうせあそこには未練もありませんし、元人間の私からすれば守る義務すらありませんからね」
「元人間だって?!」
クルスさんの酷い驚き様にびっくりはしたものの、私はこくりと静かに頷く。
そして、クルスさんにあの家にたどり着くまでの経緯をすべて話した。
「……なるほど、魔族に襲撃をされて殺された人間だったのか」
「はい。勝手に生き返らせた挙句に、不当な理由で放り出されました。メイド服一着だけなのはそのせいでもあるんです」
「それは、つらかっただろうな」
「はい、とても……」
クルスさんの声に、私は小さな声で頷く。でも、ここで泣くわけにはいかない。
「魔族の屋敷は今の家から徒歩で四日間ほどです。ただ、夜通しで歩いていたので、もっと遠いかもしれません」
「ふむ……」
「もしかして、クルスさんがあそこで倒れていたのも関係あるかもしれませんね」
「そうかもしれないな。警邏に出てしばらくしてから後の記憶がまったくないというのが、なんとももどかしい限りだ」
しばらくの間、二人で唸り合っていた。
そんな中、急にクルスさんが手を叩いていた。
「よし、気分転換に服を買いに行こう。やはり、メイド服一着だけというのは厳しいだろう?」
「え、でも、別にいいんですけど。これだけでも」
「ダメだ。その服は嫌な奴のところのものだろう? だったら、新しい服を買って気持ちを新たにした方がいい」
「うーん、それもそうですね」
クルスさんに丸め込まれてしまった私は、一応洗浄魔法で服も体もきれいにしてから服屋さんへと向かう運びとなった。汚れたままでは入店拒否もあり得る話だもの。町娘の経験があるので、とても納得のいく話だ。
いざ服屋さんへと出ようとする直前、クルスさんは私に紹介したいといって人を連れてきた。
「どうも初めまして、錬金術師さん。わたくし、今回同行させて頂くマリエッタ・ランスターと申します」
なんともきれいな女性が目の前に現れたのだった。
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