第10話 たかがポーション、されどポーション

 私は肩から提げた鞄から、持ってきたポーションを取り出す。きれいな緑色の液体が入っている。

 これまでに作った中から持ってきたのは四本ばかり。

 テーブルに並べられたポーションに、アーバンさんが連れてきた二人がじっと見つめ始める。


「あの、このお二人は一体何を?」


「鑑定の真っ最中だ。君も使ったことがあるだろう?」


「あ、そうでした。でも、こんなにかかるものなのですかね」


 隣に座るクルスさんにこっそりと尋ねると、そのような答えが返ってきた。予想外だったので驚いてしまう。

 私の鑑定魔法は一瞬だったので、こんなにかかるものだとは思ってもみなかった。


「対象にもよるだろうな。魔法だろうが技能だろうが、相手が上であれば時間がかかることがある。これだけ時間がかかっているということは、君の魔力の方が上ということになるんだろうな」


「えっ……?」


 クルスさんの説明の続きに、私は目を丸くしてしまう。

 今の私の種族は下級魔族で。そもそもの魔力量もそんなに多くない。魔族の屋敷を追い出された時だって、何の技能の持っていなかったんだもの。

 となれば、思い当たるのはあの家だけだけど、そもそも短期間でそんなに変わるものなのか。私はつい疑問に思ってしまう。


「分かりました」


 鑑定を行っていた二人が、ようやくポーションから視線を外していた。思ったより時間がかかったので、私自身が一番驚いている。


「ずいぶんと時間がかかったな」


「そりゃそうですよ。このポーション、とんでもない魔力を持っていますから」


「私なんて危うく弾かれかけました。でも、鑑定士の意地でどうにか見ましたけれどね」


 鑑定士二人の発言を聞いて、私は改めて驚くしかなかった。下級魔族の私の作ったものが、自警団の自慢の鑑定士の鑑定を拒むとは考えもしなかったのだから。

 結果として、鑑定士二人の結果はほぼ同じだった。


「ふむ、下級ポーションの良品か。買わせてもらうとするかな」


「えっ、いいんですか?」


 アーバンさんの判断に、つい声を上げて驚いてしまう。


「ああ、俺はこれでも自警団の物品管理をしてる。ポーションはいくらでも欲しいくらいだ。最近は近隣に魔物も増えてきたしな。クルスが外に出ていたのも、その警邏のためだ」


 私が確認のためにクルスさんへと振り向くと、クルスさんは黙ったまま大きく頷いていた。どうやら事実みたいだ。

 次の瞬間、私に何か影が覆いかぶさってくる。ちらりと目を向けると、そこにはアーバンさんが立っていた。


「あ、あの、なんでしょうか……」


 近くで見ると改めて大きいと感じる。私が座っているせいもあるけれど、威圧感がすごかった。


「すまないが嬢ちゃん、ポーションはまだあるか?」


「え、ええ。ありますけれど。というか、作れますよ、材料があれば」


「なんだって?!」


 急な大声に、私は体を跳ねさせる。


「本当に作れるのか。できるなら、ここで作ってもらって構わないか?」


 がっしり私の肩をつかんで、必死な形相で私を見てくる。


「こ、怖いです……」


「あ、悪い……」


 思わず私がこぼしてしまうと、アーバンさんは私から手を放して落ち着いていた。


「アーバン、女性はちゃんと優しく扱え。そんなだからまだ独り身なんだ」


「うるせえな。独り身なのはお前もだろうが」


 クルスさんとアーバンさんが、睨み合いを始めてしまう。鑑定士の二人もどうしたらいいのか困っているようだし、ここは私が動くしかなさそうだった。


「あ、あの! 作りますから落ち着いて頂けますか?」


 精一杯大きな声を出すと、クルスさんとアーバンさんはどうにか落ち着いてくれた。

 アーバンさんは私をじっと見てくる。


「ああ、作ってみせてくれ」


「……分かりました」


 私は何かあってもいいようにと持ってきていたポーションの材料を鞄から取り出す。

 薬草と蓋つきの容器の二つを出して机に置いて、蓋を外しておく。

 容器の中に魔法で出した水と薬草を入れて、私の魔力をゆっくりと注ぎ込んでいく。

 しばらくすると、容器の中にあった薬草がじわじわと姿を変えて、水へと溶け込んでいく。これが錬金術によるポーションの作り方なのよ。


「不思議な現象だな。薬草をすり潰さねえ方法なんて見たことがないぜ」


「黙っててくれ」


「ああ、悪い」


 私の集中を切らしてはいけないと、クルスさんがアーバンさんを注意していた。でも、声は聞こえても気にはならなかった。何度もやって来た作業だからか、慣れてしまっていたもの。

 やがて、容器の中で薬草が完全に姿を消し、緑色のきれいなさらさらとした液体ができ上がっていた。


「……鑑定を頼む」


「はい」


 アーバンさんが再び鑑定士に頼んで鑑定してもらうと、さっきのポーションと同じ結果を得ていた。

 これには鑑定士もアーバンさんも驚いていた。


「これはすごいな。こんな品質のポーション、見ることはないぞ」


「そうだろうな。錬金術だからこそできるというものだ」


「錬金術か。こんなに簡単にできるってのに、誰もやるやつがいないって不思議なもんだな」


 アーバンさんはじっと私の作ったポーションを眺めながら、不思議そうに喋っている。


「錬金術は、簡単じゃないですよ。魔力を注ぐだけだからそう見えるだけですけれど、その魔力を注ぐという行為が簡単じゃないんです」


 私が意見をすると、鑑定士の二人がぶんぶんと首を縦に振っていた。魔法を使うからか、すごく納得をしているみたいだ。

 実際に作るところを見せると、いよいよポーションの買取交渉となった。

 でも、私には相場がまったく分からないので、すべてクルスさんにお任せすることにしたのだった。

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