収穫、なし

 ◇


「これは……違う。これも違う」

「ごめん、一回写真貸して」

「いいよ〜――はい」

「ありがと」


 そんなふうに会話を交わしながら、二人は道端にある雑草を観察していた。道行く人々に、ちょっぴり奇異の目で見られたりしながら調査を続けていたのだが。


「見つからない!」


 あるとき、ミナミがそう叫んだ。すると、少し遠くのほうで座り込んでいたメルが、おもむろに立ち上がり、ミナミの近くまで歩いてきた。

 それから、ミナミに対して――


「ただでさえ目立ってるんだからデカい声出すな」


 と言い、手刀で頭をコツッと叩いた。


「あいてっ」

「まあ見つからないのは事実だけどさ……一回休憩する?」

「うん!」


 メルの提案に、ミナミは満面の笑みで頷いた。よほどその言葉を待っていたと見える。


「めちゃくちゃ嬉しそうだ……」


 ◇


 そんなこんなで、二人は一度公園の外に出ることにした。ずっとしゃがんで作業していて疲れてしまったのもあり、公園の外に置いてあったベンチに二人して座り込んで、話し合っていた。

 ひゅうと肌を撫でる暖かい風が、二人の汗を吹き飛ばしてくれる、ような気がした。


「……今更だけど、公園をしらみつぶしに探そうっていうの自体結構無理があるよね」


 うーん、と頭をひねらせながらミナミが言った。


「私は大変だなーとは思ってたから、思ったより早く音を上げてビックリしたんだけど」

「ふふん、正直ナメてたところはあるね」


 そう言って彼女は自慢げな表情を浮かべた。


「なぜドヤ顔」


 なぜか自慢げに言うミナミに、メルがツッコミを入れた。ごもっともである。


「うーん、それにしても何か別の方法が欲しいよね」

「一応、ここの博物館とかに、地球時代の植物が展示されてたりしたらワンチャンあるけど……」


 スマホを開いていじっているメルの様子を見るに、博物館について調べているようだ。


「けど?」

「たんぽぽをピンポイントで探すのは難しいんだよね」


 しかし、その表情はすぐれない。


「あー……でも館員さんに聞いてみたりしたら分かったりしない?」

「博物館の学芸員さんって、しっかりアポ取らないと会えなかったりするんだよね。だから結構大変だし、少なくとも今日中は無理」


 ミナミが提案するが、それもダメなようだ。メルの口ぶりから察するに、博物館でそういった調べ物をしたことがあるようだ。


「そっかぁ……じゃあまた後日?」

「博物館に行くならそうだね。一応こっちには本もあるし、自力で探すのもアリだとは思うけど」

「うーん……じゃあ、明日は別のところで探してみて、それでダメだったら博物館行きとかどう?」

「うん、良いと思う。じゃあそれでいこうか」


 ミナミの提案に、メルが頷いた。


「おっけー、ありがとう! ……いやー、それにしても小腹が空いたね」


 それから、ミナミがお腹の辺りをさすりながらそう呟いた。ふたりともご飯は食べているが、そろそろ四時にもなるし、少し小腹が空いてくる頃合いなのだろう。


「しゃがみ込んでもの探しするのも割と重労働だしね。お菓子買えるところでも探してみる?」

「うーん、そうだね〜……あっ、あれとかいいんじゃない?」


 ミナミが指差した先には、観光者用なのであろう、アイスクリームを売っている屋台があった。


 ――

 ――――


 ミナミは二段のチョコミントアイスを屋台で買ったようだ。そして、それを一口ぱくっとかじるように食べて一言。


「うむ、おいしい!」

「ちょうどすぐそこにあってありがたかったね」


 メルは一段のチョコアイスを購入したようで、二人は仲良くアイスを食べながら道を歩いていた。


「あっ、というかこの後どうする? 正直私はもう帰る気でいたんだけど……」


 それから、ミナミがどこか申し訳無さそうにそう言った。


「だろうな〜とは思ってた。まあこれ以上続けても微妙な時間になっちゃうだろうし、帰ろっか」


 メルはそう苦笑いを浮かべた。彼女がスマホで時計を確認してみると、現在時刻は一五時半。二人の家からは昼過ぎに出発したのだが、そのことを考えると、結構な時間が経っていたようだ。

 頭上に浮かぶ人工太陽も、壁に取り付けられた太陽収容室に収められようと傾き始めている。


「りょうかーい! ……いやー、結局無駄足になっちゃったね〜。付き合わせてごめんね〜」

「そういう割には全く申し訳なさそうな顔してないね」


 メルがミナミを半目で睨みながら言った。


「え? ……あー、違う違う。そういうことじゃなくてさ――私はこういう無駄足もメルと一緒だから悪くないって思ってて、それが顔に出てるだけだよ」


 ミナミは最初疑問の表情を浮かべたが、メルの言葉の意味に気がつくと、慌ててそう訂正した。


「……はー」


 それを聞いたメルは、一瞬驚いたように目を見開くと、一拍置いてから大きくため息を吐いた。それに対し、ミナミは一瞬ぽかんとした表情を浮かべるが、すぐにこう言った。


「なんでため息吐くの! 自慢じゃないけど結構いいこと言ったと思うのに!」

「そういうこと恥ずかしげもなく言えるのは、あんたの良いとこなのか悪いとこなのか……」


 メルは自身の額に手を当て、どこか呆れ気味な様子だ。


「なんでよ。良いとこでしょーが」


 ミナミは、未だにメルの言葉の意味がわかっていない様子だ。


「うーん、なんか、いつか変な男引っ掛けてきそうだなー、みたいな」

「そこは別に関係ないでしょ」


 ミナミが不服そうに反論する。


「までも、私も無駄足が嫌だったら付いてきてないから別に気にしてないわよ、ありがとね」


 それから、メルはミナミに対してそう言って笑いかけた。


「んもう! 調子狂うんだから!」


 どうやら、今回は珍しくミナミのほうがメルに振り回されているようだ。ミナミはぷんすかと拳を振り上げながら、メルに対して怒っていた。


「たまには私にも振り回されるのも悪くないでしょ」

「くっそ……これが普段私が自由人をしているツケか……」

「あ、自覚あったんだ……」


 そんなふうに楽しく雑談をしながら、二人は自分たちの家がある宇宙コロニーへと帰っていった。


 ◇

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