第2話 もちろん許してくれるよね?
机の上に座っておしゃべりをしていたら、幼馴染が俯きながら教室を去って行った。
傍から見れば悲しい瞬間を偶然見てしまったわけじゃない。私はずっと、悠斗が教室に戻ってくるところをチラチラと目の端で確認していた。
悠斗のかわいそうな姿に、もちろんみんなは気づいていない。
バスケ部のメンバーから「コートの支配者」と言われている私にとって、顔を動かさず教室の隅から廊下を見ることは造作もないこと。
バスケ部のメンバーなら可能だったかもしれないけど、ここには花形のサッカー部や野球部の俺たちカッコいいだろ風の男子とテニス部のさわやかお嬢さんとバトミントン部のカラオケ大好き陽キャ女子しかいない。
さっきから野球部のやつがエピソードトークを誇張して話しているが、多分どうってことない
それでも相槌を打つことには困らないのが、陽キャの会話の良いところだ。
「マジそれ」とか「それな」、「おもろ」とか言っとけばオールオッケー。
それよりも私は不思議な感情が心の中で渦巻いている。
——どうして悠斗の机の上に座っているだけなのに、こんなにもニヤけちゃうのかなぁ。
帰宅部なのに、勉強もできないダメダメな悠斗。授業中はほとんど教科書を立ててうたた寝してるこの机の上に座ってると、なんだか悠斗の上に座ってるみたい。
何もかもを支配してる女王様みたいな感覚がすっごく、最高。
……実際にやったらどうなっちゃうんだろ。
悠斗はきっと拒否しないよね。私の頼みを断ったことないし、謝ったらすぐに許してくれるんだから。まぁ、私に嫌われたら生涯孤独が確定しちゃうから仕方ないよね。
ていうかどこに行ったのかな。どこにも行く場所なんてないのに。私以外友達いないし、しゃべりかけてくる女の子なんて誰一人いないから好きな人もいないはず。
つまり、たまにおしゃべりして、たまに一緒に帰ってる私を好きになるのは当然のこと。
早く告白してくれないかなぁ。そしたら、粘りに粘って、悠斗が私のことしか考えられなくなるぐらい、ぐっちゃぐちゃにしてあげたい。
私の脚に縋りついたところで、手を差し伸べてあげるの。
大丈夫だよ悠斗。私が一生そばにいてあげるからね。
——流石に気持ち悪い、かも?
え? もしかして、私って死んだ方がいい?
こんなに気持ち悪いこと考えてるの、悠斗にばれたら絶対嫌われるよね?
「もう、愛莉。こいつのしょうもないおやじギャグに笑うなんて、良くないよ?」
「そうそう、こいつすぐ調子に乗るからさ」
全く話を聞いていなかったので、どんあしょうもないおやじギャグなのか分からないが、どうやら私は今笑っているらしい。
「……だって、面白かったんだからしょうがないじゃん」
こらえきれない笑みを手で隠し、目を伏せる。
これだけははっきりと言える。
これは絶対に、愛だ。
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