第3話 理性が絶対に勝つ、できレース
冬場の教室は暖房が効きすぎて、よく睡魔に襲われる。
抗う必要はない。眠ればいいのだ。
今やっている生物の授業なんて、ちゃんと聞いたところで将来の自分に全く影響がない。必要のないことに貴重な睡眠時間を取られるなんて笑止千万。
俺は一番後ろの窓側の席だからよく分かるが、現在クラスの七割が意識を落としている。高校生という生き物は、目先の不安よりも、今の楽に逃げるものだ。
まぁ、人生において高校生活というものや勉強など、すべて暇つぶしに過ぎないのだから真面目に生きるだけ無駄なこと。
勉強なんてできても社会に入れば全く役に立たないことなどざらにある。せいぜい良い大学に行けて、ちょっと有名な会社に入れるだけの、片道切符が手に入るだけ。
俺たちはもっと自由に生きるべきだ。
だから俺はここで睡魔に抗うことなく、次の授業まで睡眠をとる。
……俺は、睡眠をとるぞ。
俺はこの硬い机の上で、寝るんだ!
——それなのに、なぜ睡魔が襲ってこないんだ。
いつもならお経のように聞こえるおじいちゃん先生の五限目授業と暖房の心地よい暖かさで意識が飛ぶのが通例。しかし、今の俺は冴え切っている。
まさか、頭ではあんないやらしいことを考えていたが、身体がそれを拒否しているのか! くそ、俺の中の童貞が理性を全面に押し出してきやがる。
今更何を怖がる必要があるのか。
俺はこの机の上で寝るために、不自然ながらも教科書を置くことなく三十分睡魔が来るのを待っているんだぞ。
隣で愛莉が見ている可能性も——あるのに、それでも……。
俺はふと気づいていしまい、隣で真面目に授業を受けている愛莉を見る。
バスケ部に所属している運動神経抜群女子は授業を受けているときも、まっすぐ背筋を伸ばした美しいフォームだった。すらりと伸びた指でシャーペンをノートに走らせている愛莉は、先生が板書している黒板の方ではなく……
俺をにこやかな顔で、見ていた。
「……」
「……」
俺は錆びたブリキのおもちゃのように、小刻みに首を震わせながらも黒板の方へと向き直る。視線を貼り付け、ノールックで教科書や資料集を机から引っ張り出す。
こういう時にふて寝できるぐらい、神経が図太かったらな。
俺は高校生活で初めて生物のノートを授業中に開けたという実績をアンロックした。
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