両片思いのクラス一軍と最底辺幼馴染は愛情の形が歪んでる
智代固令糖
第1話 便所飯から帰ると幼馴染が俺の机に座ってた
便所飯から帰ると、幼馴染——愛莉が俺の机の上に座っていた。
彼女は俺を気にすることもなく、男女混合の一軍同士のおしゃべりに興じている。
ちなみに「そこ、俺の席なんだけど」とは到底言えない最底辺が俺である。
これは一軍のメンバー以外に指摘することができないから、現場に行ってもおろおろして、一軍に睨まれトイレに直帰することが確定しているので俺は教室に戻らない。
幸いなことに俺は廊下でこれを観測することができたため、家に帰って枕を濡らすことは防げたわけだ。被害は最小限に、それが俺のモットー。
この状況に俺が何も言わなければ、いらぬ反感や目立つこともない。実にありふれた事象。
俺には正義感の強い学級委員長や女嫌いの親友などいないので、物語がここから進むこともない。だからこれ以上俺にやれることはない。
校舎を軽く一周すればいい時間帯に帰ってこれるだろう。(数回の経験からくる確かな計算だが、ちょっと傷つくな)
11月になってから一気に冷え込んできているので、外には出ず、渡り廊下を通って回ろう。
俺はかかとを軸にして、進行方向へ身体を滑らかに半回転させ、両手をポケットに入れて哀愁漂わせて廊下の端をゆっくり歩く。
こういう時に有線イヤホンでジャズクラシックを聴いて、優雅にお散歩したいものだ。何も考えずに、自然の美しさとかを感受したい。
でも一応廊下でイヤホンの着用は校則違反になるので、自然と頭の中で思春期特有の妄想に走る。
————あぁ、くっそ興奮するわ。
愛莉の小さくも華奢なお尻が俺の机の上で今も休んでいるのかと思うと最高の気分になれる。この学校の机は木材でできているから、愛莉のぬくもりを直に感じられる。スカートなどもろもろの布地を含めて、俺の机が吸収しているんだと考えれば……ナイス机。
どうやら最近、学校によってはプラスチックの机が増えているらしいが、この経験をするチャンスを失ってしまうという点で愚の骨頂だ。
ふん、俺は決して愛莉のぬくもりをお尻から感じるために、木材でできた学習机は素晴らしいと言ったわけじゃない。そう、木には特有の温かさがあり大自然を肌で感じることができる。それが一番の特徴だ。
だからこそ、次の時間に俺が机の上でうたた寝をしてしまうのも仕方がない。お腹いっぱいになった上に催眠術師と名高い生物の先生の授業が五限目にあるのだ。これは不可抗力であり、定めである。
……ちょっと待て。これ、俺が机に頬ずりしたら、間接的に愛莉のお尻に頬ずりしているのと同じじゃないか!?
おいおい、俺の世紀の大発見を誰か聞いてくれ。これから女子高校生は椅子じゃなくて机の上に座ることを義務付けるべきだ!(もちろん国家機密として進行してほしい)
あっ、もしかして夏だったらちょっとは跡とかついてたのかなぁ。四限目は体育だから少し期待できるけど、流石に贅沢は言えない。というか、それなら絶対に机の上なんて座らないだろうし。
まぁどれくらい時間が経ったか分からないけど、西校舎の誰も使わないトイレまで来たということは……そろそろ良いころ合いじゃないか? よし、少し早歩きで戻ろう。
脚を組んでみたり、ベストポジションを探してみたりとかなり愛莉成分もふんだんに含まれているはずだ。なるべく早く、自分の体内に吸収しておきたい。
確か人間って皮膚呼吸できるんだよな?
……でも、今だけは身体全体の皮膚で全呼吸量をまかなってるミミズになりたい。
——俺ってなんでこんなに気持ち悪いんだろ。
普通に死んだ方が良くないか? あぁ罪悪感でこの世からエスケープしたい。人生リセットボタンをポチった方が絶対いい。
俺は下がらない口角を片手で抑えつつ、教室へと一直線に向かう。
しかし、これだけははっきりと言える。
絶対にこれは、愛だ。
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