魔のつく雪の女の子

一陽吉

逃げる男 追う少女

「はあ、はあ……」


 この吹雪のなか、お兄さん、よく動けるね。


「はあ、はあ……」


 でも仕方ないか、動いて逃げなきゃいけないもんね。


「はあ、はあ……」


 お巡りさんに見つかれば逮捕、恐いおじさんに見つかれば撃たれるわけだし。


「はあ、はあ……」


 着てるのは高級な背広でも、この状態では濡れて風も吹いて寒いはずなのに、生きようと必死なんだね。


「はあ、はあ……」


 でも、こうなったのはお兄さん自身のせいなんだよ。


「はあ、はあ……」


 大変そうだし、終わらせてあげるね。


「はあ、はっ! だ、誰だ!」


 こんばんは、お兄さん。


「お、女!? しかも子どもか」


 たしかにそのとおりだけど、こっちからは話せないの。


「なんでこんなところに子どもが」


 話せないから行動で示すね。


「な、左腕が凍って──、ギヤアアアアアアアアアアアア!!」


 うん。凍らせて砕いたからとても痛いよね。


「アアアアアアアアアアアア!!」


 痛みに耐えきれず路面を転がってるけど、まだだよ。


「は……、今度は右手と、足が……。ギヤアアアアアアアアアアアア!!」


 右腕と両足も凍らせて砕いたから、お兄さん、ダルマになったね。


「アアアアアアアアアアアア!」


 こうなるともう、頭を振って叫ぶことしかできないね。


「アアアアアアアアアアアア!」


 それじゃあ、死あげるよ。


「な、なんだよおまえ……。俺を……、殺すのかよ……」


 うん。


「い、嫌だあ! 死にたくねえ! 死にたくねえよーーーー!」


 三十歳半ばのお兄さん、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだね。


「やだあ! 嫌だあ! うわああああああああああああ!」


 さようなら。


「……」


 何十人もの人を不幸にしてきた人の悲鳴はいつ聞いてもおいしいね。


「……」


 わたし、悪魔と雪女のハーフなんだけど、お兄さん、生まれ変わってもわたしにおいしい悲鳴を聞かせてね。


「……」

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魔のつく雪の女の子 一陽吉 @ninomae_youkich

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