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◇◇
(死ッッ!)
一方、背を向けたルーカスは、間近で見るアメリアの威力に死にかけていた。
しかし、長年培ってきたポーカーフェイスを崩すことなく、街の人たちの賞賛の声を一身に受けている。
「さすが騎士様だわ」
「ルーカス様って、寡黙でかっこいいわね」
ただ、本人に聞こえるように囁かれた声は、天に召されるかのような気分を味わっているルーカスの耳には残念ながら全く入っていなかった。
(ははははははじめてはなしてしまった……!
あの愛し子に触れてしまった……!
毎日のように夢見てた、アメリアの目に映ることを。
こんなにも騎士でよかったと思ったことはない。
今なら何百人が束になって襲ってきても返り討ちにできるぐらい、パワーが漲っているのが自分でもわかる。
貴女はどんな匂いで、どんな感触がして、俺に対してどんな風な態度をとるのだろう。そんなことをずっと考えてた。柔らかな優しい春の香り、筋肉隆々な自分とは全く違う、触れたらすぐに折れてしまいそうな華奢な身体。…………嗚呼、思い出すだけで興奮して、今夜は眠れそうにない。
我が愛しきひとよ、これからも永遠に私は貴女だけの騎士で在り続けます。)
◇◇
「アメリア! いつか必ず貴女を……!」
興奮しきった身体を鎮めようとルーカスが夜な夜な剣を振って汗を流している頃、同じようになかなか眠りにつくことができずにいたアメリアは、自室の窓から三日月を眺めていた。
「はぁ……」
重たいため息。まるで、恋煩い。ベール越しに見た彼のことを思い出すだけで、胸の奥が震えて、焦がれてしまう。
夕飯も喉を通らなくて、せっかくシェフが美味しいご飯を作ってくれたのにほとんど残すことになってしまった。
苦しい。心臓が痛い。
(だって、私じゃ駄目だわ)
嫌われ者のアメリアが想いを寄せても、それはきっと彼にとっては迷惑。彼の築き上げた人気に傷をつけてしまうから。彼の重荷にはなりたくない。
(もう、会わない方がいいわ)
会わなければ、きっと忘れられる。
そんな決意とは裏腹に、つーっと勝手に涙が溢れてくる。
するとその気配を察したのか、幼い頃からの友人・ハスキーのハリーが近寄ってきて心配そうにアメリアの手を舐める。
小さく微笑んだアメリアは「大丈夫よ」と頭を撫でて、共にベッドに戻った。
(目が覚める頃には、この痛みが消えていますように)
そんなことを願いながら、アメリアはそっと瞳を閉じた。
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