第19話 騎士団総長と文官室総長
「そろそろ皆、落ち着いた頃かね?」
しばらくヒートアップしていた会議室だったけれど、やがてその熱が収まってきたところで、陛下が一声掛ける。
それによって、一気に会議室は落ち着きを取り戻した。
「失礼しました。陛下」
「構わぬ。余とてそれに気づいた時は憤慨したのだから当然である」
一同を代表するようにメガネの人が謝罪をすると、陛下はそれを気にするなと首を横に振る。
「さて、話が熱くなっていて後回しになっていたが……イェーナ殿に、皆の紹介をしなければならないな」
陛下の言葉に、会議の参加者たちはそういえばという顔をする。
「まずはネスガナンからしてもらおうか。あとは順にな」
「は!」
名前を呼ばれ、筋肉質でヒゲが豊かな男性が私に一礼する。
「ハイセニア騎士団総長のネスガナン・ヴィスコトミーだ。恐らく一番関わるコトが多くなるだろう。よろしくお願いするイェーナ殿」
なるほど。
見た目通り、武人の方でしたね。
丁寧な仕草の中に豪快さというか
「こちらこそよろしくお願いします」
私が頭を下げると、続けて神経質そうなメガネの男性が一礼した。
ただ、その顔に浮かべている笑みは、薄くも柔らかく気遣いを感じる。
神経質で気難しそうな雰囲気のせいで誤解されやすいタイプの人――なのでしょうか?
「次は私が。文官室総長のエイテシンク・ムスビミスと申します。
総長を就任してからまだ間もない若輩者ではございますが、よろしくお願いします」
随分と役職の割にはお若い方だな――と思いましたが、そういうことでしたか。
「はい。よろしくお願いします」
そこから続けて、要人の方々を紹介されて挨拶していきます。
皆さんの役職やお仕事の感じなどから、私が関わり合いが多そうなのは、ヴィスコトミー様と、ムスビミス様になりそう。
もちろん、挨拶をしてくれた人たちの顔と名前はここで一致させます。
そういうのは得意――というか、出来ないと色々とダメ出しされるような環境だったから、能力として取得してるんだけど。
「さて、みなの紹介が終わったところで本題に入ろう。イェーナ殿にして頂く仕事についてなのだが――」
そこからは、ニーギエス殿下から伺った内容に、カグヤが提案した教導隊の話が乗ったようなことが、実現した感じでした。
巨鎧兵騎の運用法や、それを用いた戦略、戦術。
それを指導するための部隊としての教導隊を、私を隊長として編成。
私とカグヤによる魔導技術――特に巨鎧騎兵関連の改造や新造の提案や、知識の提供など。
そして、巨魔獣や厄災獣などが出現した際の、対処。
これに関しては、騎士団の成長次第では、私の仕事は減るみたい。
「教導関連は騎士団。技術関連は文官室。それぞれが担当となります」
「わかりました」
騎士団と文官室の仲はどうなんだろう?
ここが悪いと、新装備の提案とかしても、予算などの問題が色々出そうだけれど。
その辺は、お仕事をしながら、探っていくしかないかな。
「――とまぁ一通りはこんなところかな? イェーナは何か質問ある?」
ニーギエス殿下に問われて、私は少し逡巡して、首を横に振った。
「今のとこはありません。実際に働いて見ると色々出てくるかも知れませんが」
「それは当然だな。気になったコトがあれば、総長たちや、私たちに気軽に訊いてくれて構わない」
ハヤギニス殿下の言葉に、私はうなずく。
「はい。ありがとうございます。そうさせて頂きます」
私の処遇や仕事などに関する話し合いなので、この辺りでお開きかな?
そんなことを思った時だ。
コンコンと、どこか慌ただしいノックがされた。
「会議中に失礼いたします。少々緊急の案件です」
「入れ」
入ってきたのは、恐らくは騎士の一人。
敬礼をするその騎士を見て、陛下が報告を求める。
「シュームラインとの国境の砦から東側。
崖が一番狭くなっている近辺にて、所属不明の黒い巨鎧騎兵たちが集まっているとの報告が上がってきております」
騎士の報告に、全員が眉を
「崖を挟んでどちらに集まっているのだ?」
「現状はシュームライン側ですが、明らかにハイセニア側へと渡ろうとしている様子が伺えるそうです」
「冷静に考えればシュームラインの巨鎧騎兵だろうが……」
「シュームライン王国は主に茶色か銀色を主体とした色の機体を使っているはずですな」
ヴィスコトミー様が私に視線を向けるので、それにうなずく。
「黒だとしたらヨーグモッツの色ではありますが……」
「場所は明らかにシュームライン国内。さすがに他国の巨鎧騎兵がたむろしていてはシュームラインとて怪しむでしょうね」
本来であれば、ムスビミス様の言う通りではあるのだけれど……。
《所属も気になるけどさ~、そいつらの目的って何なのかな~?》
カグヤの言葉に全員の思考が、どこの所属の者たちか――から、目的は何かへとシフトしていった。
確かに、相手の所属以上に目的が気になる。
「カグヤ殿の言うとおりだな。所属がどうあれ、関所を使わずに、しかも巨鎧騎兵を用いて入って来ようとしているのであれば、警戒も必要か……」
陛下は一つうなずき、ヴィスコトミー様へと視線を向けた。
「少し嫌な予感がするな。ネスガナン。部隊を編成して、様子を見に向かわせてくれ」
「かしこまりました。早速で申し訳ないのですが、イェーナ殿をお借りしても?」
「うむ。どうかな、イェーナ殿?」
確かに、巨鎧騎兵戦となった時、この国の練度では相手の強さ次第では危ないかも知れないかな。
「問題ありません。カグヤ?」
《カグヤちゃんも問題ナッシング!》
私たちの言葉に、ヴィスコトミー様が大きくうなずいた。
「ではイェーナ殿。すまないが一緒に来て貰えるか?」
「かしこまりました」
「陛下、殿下方、慌ただしくて申し訳ありませんが」
「このような状況だ。慌ただしいコトに申し訳なく思う必要はない。頼むぞ」
「は!」
こうして、私とカグヤは、ヴィスコトミー様とともに騎士団の隊舎へと向かうのだった。
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