ACT.03 挨拶、マイホーム、そして這い寄る黒の騎士
第14話 歓迎! おいでませ聖女様!
関所の砦を出発してからおよそ二週間。
途中で巨魔獣に襲われたことで、寄り道が発生してしまったとはいえ、おおよそは予定通りの道程を辿った。
私たちを乗せた馬車が、ハイセニア王国の王都アーマイアの門を潜る。
門を抜けて視界が開けると、そこには白亜の町――とでも言えばいいのだろうか。全体的に建物が白く、屋根がそれぞれにカラフルな綺麗な町並みが広がっていた。
そんなの町を包むように、天然の城壁――岩山が三日月状に広がっている。
その岩山の山肌にも建物や、人工的にくりぬかれた様子が見受けられる。実際に城壁として利用できるようにしてあるのだろう。
整えられた美に、それを維持しようという民。
そして何より――
【聖女イェーナ様、大歓迎】
――という大段幕に、紙吹雪が舞っている。
《わお! イーちゃんってば大歓迎されてるじゃん》
「……殿下、これは?」
「シュームライン王国特有の守護騎士という役割を国民はイマイチ理解しきれていないようでな。
シュームライン王国に現れる固有の巨魔獣から国を守る聖女姉妹であると、キミたちのコトをそんな風に認識しているのさ。
せっかく歓迎してくれているんだ。馬車の窓を開けて手でも振ってやるといい」
楽しそうにそう口にするニーギエス殿下に、私は困っていると、パタパタとカグヤが動く。
その背中の羽根を器用に使って、窓を開けてしまった。
《ささっ! マスター様、お手をお振りくださいませ~》
「カグヤぁ……」
絶対楽しんでるでしょ?
とはいえ、窓を開けてしまった以上はさすがに手を振るべきか……。
作り方を忘れかけていた作り笑いを無理矢理に作って、ぎこちないだろう笑みを浮かべた私は手を振る。
それだけで、目があった人たちを中心に盛り上がる。
そのことに私は大きく驚いてしまった。
「……どうして、こんなに……」
「守護騎士姉妹――少々、話がねじ曲がって聖女姉妹という扱いにはなっているが……それなりに伝わっているというコトさ。
そんな有名な聖女の片割れが、万が一シュームラインの外に厄災獣が出現した時に備えて、知恵と技術を提供しに我が国へと足を伸ばしてくれた……ともなれば、国民も盛り上がるというモノだ」
笑って説明してくれるけれど、私にそんな価値があるんだろうか。
「キミが思っている以上に、巨魔獣や厄災獣は、我が国の民にとっては脅威なんだ。
なにせ、遭遇率が低いからね。他の国や町の被害を聞く度に、それらを見たコトのない民にとっては、とても大きくて怖い想像上の異形となっていくワケだ」
《それを退治する方法を伝授しにきた聖女様となれば、そりゃあ歓迎されるネ☆》
「そういうコトだな」
ダメだ。
説明されている言葉の意味は理解できるのに、だからといって私なんかでこんな盛り上がられても……と考えてしまう。
《うーん……マスターちゃんは重傷だなぁ》
「変に調子に乗らない分マシかもしれないが、少し自己認識が弱すぎるのはあるな」
《ニギちゃん的にはこういう時に調子に乗ってやらかすヤツはダメ?》
「ダメとは言わんが……こっちで制御できない調子の乗り方されるのは勘弁して欲しいとは思う」
二人のやりとりの意味がイマイチ分からない。
「ええっと、二人が言うのはどういう状況のコトですか?」
《豚もおだてりゃ木に登る――なんて言う通り、おだてられると人って調子乗っちゃうワケよ。
木登りだけで済めばマシでさ、その木の天辺で自分はサルより木登りが得意ござーいとイキりまくった挙げ句、木が折れて他の豚やサルを潰しちゃったりしたら大問題でしょ?》
「適切なんだかどうか微妙な例えだが、まぁ間違ってはいないか。
豚をちょっとした武勲を得た者、サルを一般騎士だと思って考えてみるといい」
そう言われて、何となく理解は出来た。
武勲を上げて調子に乗った者が、他の騎士たちを見下し、結果として大惨事を招く――そういう話なのだろう。
《豚が平民やら階級の低い人ならまだマシだけどさぁ……王族とかだと目が当てられなくなるよね?》
「身分が上の者を立てる為に、模擬戦相手が手を抜いてくれてるコトに気づかぬ者が時々いるとは聞くな」
あー……それは間違いなくヨーシュミール殿下だ。
あの人は負けると癇癪起こすので、手合わせする騎士たちも、面倒くさそうに手を抜いてたし。
でも――
「そういう人って、手加減されてると気づいた時も癇癪起こすので、どうにもなりませんよ」
「実感こもってるな……」
《ちゃんマス苦労しすぎじゃない?》
そんなやりとりをしている私たちを乗せた馬車は、王城の門をくぐってくのだった。
ハイセニア王城。
てっきり、国王陛下の執務室や謁見室などに連れてかれていかれると思っていたのだけれど……。
綺麗なドレスに着せ替えられて、連れてこられたのは大きなホールだ。
ちなみにカグヤはお城の中で飛び回るのはあんまり良くないだろうと自己判断し、完全にただの
私はドレスの上からとはいえ、不自然にならないような
ストラップモードなんてのを自称して、頭から輪っかを生やして。
お調子者で、賑やかなカグヤだけど、こういうタイミングでは冷静に判断する能力が高いのはありがたいというべきか……。
そしてニーギエス殿下は、ホールの入り口の扉の前で、私に手を差し出してくる。
「お手を、イェーナ。入場のエスコートをさせて頂きます」
よく分からないけれど、ここにはエスコートされながら入らないとダメというのならば従おう。
「ではよろしくお願いします」
私がニーギエス殿下の手を取ると、殿下は私に微笑みかけ、それから扉の前で控えている従者へと視線を向けた。
その視線を受けた扉の前で控えていた方たちが、ゆっくりと扉を開けていく。
扉の先に広がっていたのは、パーティ会場だ。
テーブルがいくつも立ち並び、その上には綺麗な料理が所狭しと並んでいる。
中にいる人たちも皆、貴族なのだろう。
豪奢な格好をした人たちが、開いた扉の先にいる人物――つまり、私と殿下に注目している。
『予定よりも少し遅れておりましたが、聖女イェーナ様、無事にご到着でございます』
拡声器で声を大きくしながら、司会と思わしき人が声を出す。
「行こうか」
「えっと、はい」
殿下に促されて、恐る恐る歩き出すと、会場中から拍手で迎えられた。
そのことが信じられない。何が起こってるか分からない。
もはや殿下のエスコートに手を引かれるがままという感じだ。
現実感のない状況のまま、一段高くなった場所へと連れて来られた。
そこに立っていたのは、会場内で一番豪奢な衣装を纏った男性と、同じように豪奢な格好をした青年だ。
どちらも、どことなくニーギエス殿下に似ていることから、彼らが誰だかすぐ分かった。
「ただいま戻りました。父上。兄上」
「うむ。よくぞ戻ったニーギエス」
ゆっくりと、ニーギエス殿下が組んでいた手を離す。
むしろ、今は離さないで欲しいと思うくらいに、私は緊張しているらしい。
とはいえ、それで手をさまよわせるのはあまりに格好が悪いので、グッと堪えた。
「イェーナ・キーシップ殿。よくぞ参られた。
私がハイセニア国王オシホノスだ。私はキミを歓迎する」
「お初にお目に掛かります。イェーナ・キーシップと申します。この身には過分な歓迎、ありがとうございます」
多少の外交はやらされていたので、礼儀作法なども特に問題はない。
そうはいっても、この状況はさすがに焦るのだけれど。
それに、買われた身でこんな扱いを受けるのは少し困る。
そんな私の心境を見抜いたのだろう。
オシホノス陛下は少し声を小さくし、私に告げる。
「キミがこの国へ来る細かい経緯は伏せてある。
表向きは交渉の結果にて我が国に来て貰ったとなっている」
そういうことか。
それならば、こういう歓迎も理解できる。
ニーギエス殿下も、それを説明してくれれば私も少しは納得したし、焦らなかったのに。あるいはニーギエス殿下も、詳細は把握してなかった可能性もあるけど……。
「父上。ボクにも挨拶をさせてください」
「ああ。そうだったな。イェーナ殿。こちらは上の息子だ」
「初めましてイェーナ殿。ニーギエスの兄、ハヤギニスだ。よろしく頼むよ」
「はい。こちらこそ初めまして。よろしくお願いします」
ハヤギニス殿下とニーギエス殿下はよく似ている。
ただ兄殿下が文官的な雰囲気なのに対して、弟殿下は武官という雰囲気なので、得意分野が正反対なのだろう。
「さて、イェーナ殿。皆に改めて貴女を紹介して良いだろうか?」
「はい」
陛下にそう問われたら、うなずくしかない。
状況は分かったけどやっぱり場違いにしか思えないのだ。
シュームラインにいた時は、こういう場で目立つようなことはあまりなかったから。
ああ――はやく、隅っこに行きたい……。
壁の染み扱いでいいので、ゆっくりご飯とお酒だけ味わせてください……切実に……。
==================
本日からストックに追いつくまで
1話づつの更新となります٩( 'ω' )و
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます