彼とのセックスは、いつも一度で終わらない。無言の手荒いセックスが、体力の限界まで続く。だから彼はきっと、疲れ切りたいんだと思う。ものを考える余力がないくらいまで。それに付き合う俺も、身体は結構しんどいのだけれど、これに付き合いきれなかったら俺の価値なんかなくなると思う。おんなのひとと俺の違いはそこだし、求められているのも結局それくらいのことだろう。あとは、100パーセント妊娠しない安全性か。

 俺の中に射精した後、ぐったりと彼が俺の上に落ちてくる。セックスの後くらいしか、彼はこんなに俺の近くにいてはくれない。だから俺は、貴重なこの機会を逃したくなくて、ただじっとしている。身体を少しでも動かせば、彼が我に返って離れて行くのではないのかと思って。

 「一緒に死ぬか。」

 ほとんど聞き取れないくらいの声で、彼が呟く。俺は、半ば嬉しくすらなって、うん、と頷く。本当は、彼が俺と死んでなんてくれないことは、分かっているけれど。

 「馬鹿だな。」

 彼がそう言いながら、俺の髪を冷たい指でかき上げた。あんなに触れ合っていても、彼の身体はまだこんなに冷たい。俺はそれを悲しく思いながら、彼の指先の感覚を噛み締めている。馬鹿だな。そんなこと、俺自身が一番分かっている。

 「……泊まっていく?」

 頭皮を軽くひっかく彼の指に酔いそうになる自分を叱責して、決死の思いで尋ねると、彼が俺から身を離した。そして、吐き捨てられる言葉。

 「ホモが調子に乗んなよ。」

 いつものことだ。聞きなれた言葉だ。一々傷ついていたら身が持たない。

 言い聞かせても、ざくりと胸の奥の方に痛みが走るのを無視することもできない。

 ごめんごめん、と、笑いながら、俺は身体を起こして服を着る。

 「シャワー、使って。」

 そう言っても、彼はただ服を着て、俺の部屋を出て行ってしまう。冷たい雨の中に。

 彼はこんな雨の中、どこに行くのだろう。彼を玄関まで見送って、彼の背中が見えなくなってもその場に立ち尽くしたまま、俺はそんなことを思う。まっすぐ家に帰るのか、それとも数多いるらしい女のところにでも行くのか。 

 俺は彼のために、雨予報の日はいつも、予報が外れて雨が降らなければいいと祈る。でも、自分自身のためにはどうしても、今日も冷たい雨が降ればいいと祈らずにもいられないのだ。そんな自分が、心底嫌いだった。

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