【3話】桃太郎の商才覚醒

「桃太郎さん! きび団子屋、めちゃめちゃ繁盛しましたね!!」


「それな! ガッポガッポよ! マジビビった!」


「桃太郎さん、言い方…」


桃太郎とシロは、きび団子屋の成功に気を良くし、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに頬を緩ませている。


「いやー、それにしても、マーケティングと新商品開発が見事にハマったね〜」


桃太郎はこれまでの苦労を振り返りながら、しみじみとその思いを口にした。


「あ、そうでしたね…、まーけてぃんぐ、でしたね…」


シロは“まーけてぃんぐ”という言葉を聞いて、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「うんうん!

シロちゃんのマジでリアルな喋るワンちゃんの宣伝効果がヤバかったわ〜

あなたをお供して大正解よ!」


一方で桃太郎は、これ以上ないほどの成功をもたらしたシロを、惜しみない称賛の言葉で讃えていた。


「あ、ありがとうございます…」


「某携帯会社のお父さん犬も顔負けだったに違いないわ!」


「桃太郎さん、何のことを言っているんですか?」


「ああ…、ごめんごめん、何でもないわ」


桃太郎からの指示で、シロが多くの人々の前できび団子の美味しさや新商品の魅力を語る役割になった。

「犬が喋ることを、多くの人に知られたらまずいのでは?」と不安を訴えるシロに対し、桃太郎は「大丈夫よ」と自信満々で押し切る。

実際にはシロの心配は杞憂に終わり、人々は犬が喋ることを信じず、あれは腹話術だと思い込んでいた。


人の腹話術ですら相当の訓練が必要になるが、犬の腹話術となると、人の腹話術以上に高度な訓練と連携が必要とされる至難の技。この最高難度の演芸を披露したことで、観客たちから喝采を浴び、きび団子屋の評判も急上昇。ブランドの確立に繋がった。

時間も労力もかからないシロがただ喋るだけということを、ここまで劇的な成果に結びつけたのは、さすが桃太郎の緻密な戦略の賜物と言えるだろう。


しかし、シロにとって大勢の前で話すのは極度の緊張を伴う試練だったらしく、その記憶を思い出すだけで身体がガクガクと震え出す始末。心の中では、もう二度とあんな思いはしたくないと強く願っていた。


また、桃太郎はシロの手柄だと褒めてくれているが、実際にはシロの苦労だけではない。

桃太郎が開発した新商品「タピオカきび団子」も成功の大きな要因となっている。

なにやら“たぴおか”と呼ばれる食材をきび団子の中に練り込むことで、きび団子特有のつるりとした食感に加え、ぷるぷるとした弾力ともちもち感が生まれ、癖になる食感のコントラストと、驚くほどの美味しさを実現していたのである。


新商品の開発にあたり、桃太郎は連日不眠不休の奮闘を続けていた。

その影響か、時折虚ろな目で「きび団子こわい、きび団子こわい…」と部屋の隅でつぶやく姿が見られたり、朝目覚めるなり「タピオカが襲ってきた…!弾力に殺される…!」と怯え、シロにしがみついて震えることもあった。


そして、新商品「タピオカきび団子」が完成した時、桃太郎は興奮気味に「口の中がトランポリンやー!」と訳の分からないことを口走った。


そうした数々の苦労を乗り越えて掴んだ大成功だ。

喜びを噛み締めずにはいられない。




*****




松平元信まつだいらもとのぶは連日の激務で疲弊していた。

鬼ヶ島所司代おにがしましょしだいに任命され、新たな改革を進めることになったが、計画が大掛かりすぎて、次々と膨大な仕事が押し寄せる状況に陥っていた。

現在、トラブルが発生し、しばらく淡之江あわのこうに滞在している。


「ふう、さすがに疲れが溜まっているな…

これは、ブラックすぎるだろ…」


鬼ヶ島所司代は、鬼ヶ島及びその周辺地域の行政機関として、監視や治安維持を担う重要な役割を果たしている。


さすがの松平元信も、その眼光の鋭さがわずかに失われ、まるでうなだれるように肩を落としているように見えた。元気なく歩いていると、ふと目の前に人だかりができているのに気づいた。


「なんだ、これは? きび団子屋か?」


どうやら、きび団子屋の前には人々が集まり、賑やかな声が響いているようだ。

どれどれ?と、人混みに足を踏み入れると、目の前で美しい少女が白い犬に向かって「なぜ、きび団子なの?」と問いかけているのが見えた。

すると、白い犬が「お前にはまだ早い!」と一喝。


そのやり取りが面白いのだろう、人々が笑っている。

そして、犬の腹話術とは珍しい、これは見事なものだと感心する。


「きび団子か、久々に甘いものでも食べてみるか

少しは疲れが取れるかもしれん」


松平元信は思わずきび団子を買って口に運んでみると、その味に驚きの声を漏らした。


「ほう、これは美味い!

こんなに美味いきび団子があったとはな…」


少し元気が戻った彼は、しばしの間、満足げに微笑みながら「さて、戻って仕事をするか」とつぶやいた。

そして、あの白い犬の見事な腹話術を思い出しながら、某携帯会社のお父さん犬にも引けを取らないな、と感心しつつ帰路についた。


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