【4話】2人目と3人目、そして、ようやく鬼退治へ

「ほんまに、勘弁してほしいわ

なんか、うちらだけめっちゃ端折はしょられてへん?」

が関西弁でぶすっとした顔をしながらぼやいている。


「ほんっとに!もうっ!

ありえなーい、ありえなーい、ありえなーい!」

がお姉言葉でぶすっとした顔をしながらぼやいている。


桃太郎の左右にはがちょこちょこと歩を揃え、頭上にはが羽ばたきながら優雅にその後を追っている。きび団子屋が軌道に乗り余裕ができた桃太郎は、猿と雉を仲間に加えるべく、行動を起こしていた。




───数日前


「そういえば、きび団子屋にばかり気を取られて、猿さんと雉さんをお供に迎えるのをすっかり忘れていましたね…」


シロはふと思い出して話題を切り出した。

どうやら、この先、シロと同じく猿と雉も仲間として加わる予定らしい。


「まぁ、仕方がないわよ

縁があれば、巡り会う日もくるでしょう」


「そうですね!

猿さんと雉さんも、桃太郎さんのお手伝いをしたいはずです!

いずれ一緒の仲間になりたいですね」


「へぇ…、手伝いたいんだぁ…

そうなんだぁ…

それはいいこと聞いちゃった!」


「げげ…

なんか、桃太郎さんがすごく悪い顔になっている…」


「きび団子屋が繁盛し始めたから、ちょうど人手が足りなくなってきたのよ

労働力のがついて良かったわ」


「桃太郎さん、労働力って表現、やめて…」




───現在に戻る


シロと出会ってから、動物が喋るということには慣れていたため、猿と雉とのやり取りは驚くほどスムーズに進んだ。

出会ってすぐにきび団子を渡し、わずか5分足らずのやり取りであっさりと仲間入り、そして、シロと同じように名前を考えた。


ただ、猿と雉は、あまりにもあっさりと無駄なく終わったことに不満を感じているようだ。もっと心を動かされるような、感動的な出会いがあっても良かったのではないかと、ぼやいている。


「お二人とも、すっかり遅くなったうえに、あまりにもあっさりとした出会いになってしまい、本当に申し訳ありません…」


シロは、二匹…、いや、二人の勢いに気圧され、肩をすぼめて恐縮しきっている。

犬、猿、雉の間では、“一人”、“二人”といった表現が自然に会話の中で交わされているようなので、“匹”と表現するのは失礼にあたるのかもしれない。


「まぁまぁ、シロちゃんの言う通り、モンタくんもピーコちゃんも、ね、機嫌直してよ〜」


桃太郎は、猿を「モンタ」、雉を「ピーコ」と名付けた。


「帰ったらさ、例の『タピオカきび団子』をご馳走するからさっ」


桃太郎は猿のモンタと雉のピーコに向かってぎこちなくウインクをし、何とか機嫌を取る。


「まぁ、ワイだけ『くん』付けされてるから、ちょっと特別感あってええね

でも、食べ物に釣られるほど甘うないで」


モンタは少しだけ間を作って言葉を続ける。


「スイーツだけにな、プププッ」


モンタはひとりで爆笑し、しばらくの間、笑いが止まらないようだった。


「ふぁ〜、『タピオカきび団子』ってすごくない?

それって、めちゃ楽しみ♪」


ピーコは、それはそれ、これはこれ、といった様子で、純粋にタピオカきび団子を楽しみにしているようだ。




*****




桃太郎の仲間が三人となり、しばらくの時が過ぎた頃。


「さて、みんなのおかげで、きび団子屋の売上も倍増、資金も貯まって、キャッシュフローも潤沢な状態になったわ!」


一同「お〜!」と声をあげる。

が、しかし…。


「だけど…、なんだか、すごく疲れました…」と、シロは息も絶え絶えな様子で、ぐったりとした表情を浮かべている


「せやな、ワイもこんなにこき使われるとは思わんかったわ、桃太郎はん、ほんま人使い荒いで」と、モンタはぐったりと横たわったままぼやいている。


「桃太郎さん、アタシね、渡り鳥じゃないのよ、そんなに長距離飛べないのに、なんでいつも海を渡って飛ばなきゃいけないの!? 羽がもげちゃうわよ〜」と、ピーコはワーワーと早口でまくし立てている。


桃太郎は冷や汗を一筋流しながらも、必死に笑顔を作りつつ「あはは…、あはは…」と軽く笑いながら言葉を続けた。


「みんな、ありがとね!

本当に感謝してるよ、素晴らしいわ!

ご馳走も用意してあるから、いっぱい食べてね!」


桃太郎は皆にねぎらいの言葉を伝えた。

ただ、そのご馳走というのは、きび団子の新商品開発でさまざまなフレーバーと組み合わせて試行錯誤したものである。

言ってみれば当たり外れのあるもので、決して“ご馳走”とは言えない代物ではあったが、犬、猿、雉は根本的にきび団子を好物としているせいか、絶対に微妙だろそれ!、というきび団子でも美味しそうに食べている。

きっと桃太郎は、一石二鳥だとほくそ笑んでいるに違いない。


「というわけで

そろそろ兵を集め、武器を整えて、鬼ヶ島へ攻め込んでいきましょうかね」


桃太郎は珍しく真剣な口調で話し始めた。


「え? 兵ですか?」

シロがすぐに疑問を口にした。


「そうよ!

兵力は多ければ多いほどいいに決まってるじゃない」


桃太郎は少し間をおいて、わざとらしくもったいぶってから言った。


「絶対に負けられない戦いが、そこにはあるのよ!」


「ムムッ!」

シロがすかさず唸る。


そして、モンタとピーコも言葉を続ける。

「確かに負けられん戦いやけど、なんか、鬼退治のイメージが思ってたんとちゃうな…」

「でも、みんなで一緒に行くのよね、ワイワイ賑やかで楽しそうねぇ~」


「この世は不条理

理想と現実のギャップは常に大きいのよ」

桃太郎は人差し指をビシッ!と立て、勢いよく言い放った。


「そ、そういうものですか…?」

シロは「本当に?」と言いたげな疑問の色を浮かべた表情をしている。


「しかも、鬼ヶ島の鬼を退治すれば

お宝がごっそりと手に入るらしいじゃない!」

桃太郎は目をキラキラと輝かせ、うっとりとした笑顔を浮かべながら話している。


(桃太郎さん、また悪い顔をしている…)

(桃太郎はん、ほんまに悪い顔してまんな…)

(あらまぁ、桃太郎さん、すごく悪い顔でキラキラしているわぁ…)

シロもモンタもピーコも、皆が心の中で同じ思いを抱いている。


「桃太郎さん!

なんか…、鬼退治よりも、お宝を奪う方が目的になっていませんか…?」

シロがバシッと桃太郎にツッコミを入れる。


「ば、ばかね

も、もちろん、鬼退治の方が大事じゃない!

鬼に困っている人達がたくさんいるのよ!」


桃太郎は慌てて目を左右に動かしながら、何度も反論を繰り返しているが、シロもモンタもピーコも、じっと冷ややかな目で桃太郎を見つめていた。


「あ、でも困っている人を助けたら、何かしらの謝礼をいただけるかもね♡

うふふ、さらに、やる気が出てきちゃった!」


桃太郎はテンションが一気に上がったのか、さらに声を張り上げて、周囲に響くように叫んだ。


「お宝ゲットに謝礼に、さらなる資金調達ができそうね!

そしたら、きび団子屋をフランチャイズ展開して、一気に全国展開よ!

よーし、やるわよ〜!!」


シロもモンタもピーコも、心の中で「ダメだ、こりゃ」と呟いた。




*****




松平元信まつだいらもとのぶは満足そうな笑みを浮かべながら言った。


「ふふ、儂の計画は狙い通りよ

順調すぎて、逆に怖いくらいじゃな」


鬼ヶ島所司代おにがしましょしだいでの大きな改革も、ようやく軌道に乗り、順調に成果を上げているからこその余裕の笑みだった。

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