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「まずヒロアキさんが扉を開けたときトウジさんはここに血を流して倒れていた」


 ユタカはトウジが倒れている場所を指差す。


「床の血が乾いています。それなりに時間が経っているでしょう」


 床を指差しながらユタカが言う。


「最後にトウジさんを見たのはいつでしたか?」


 ヒロアキが一番先に答える。


「俺は昨日昼ここに着いたときが最後だぜ。兄貴は晩飯にも下りてこなかったしな」


 次に答えたのはミカコだった。


「私はトイレに行くときすれ違った。晩ご飯の前だからたぶんヒロアキさんの次だと思う」


 ユタカは頭をかきながら言う。


「恥ずかしながら僕は昨日夜に着いたので、トウジさんにご挨拶にも伺えなかったです。もう寝ているかと思って」

「おう、その車の音は俺が聞いたぜ」


 ヒロアキが頷いて言う。


「じゃあ私がトウジを見たのが最後かね」


 トシエはそう言った。


「晩ご飯の後にトウジが一回下りてきたんですよ。喉が渇いたのか飲み物を取りにきたんでしょうね。リビングにいたので隣のキッチンで冷蔵庫を漁っている音が聞こえました。確か夜の九時ごろだったかと思います」


 全員がジッとトシエを見る。


「あら、まさかこの年寄りがトウジを殺したと?」


 目を細めて平坦な声で聞く。

 それは不可能ではないが難しいだろう。

 トシエは体格も大きな方ではないし、力も強くはない。大の男に抵抗されたらひとたまりもないはずだ。


「この中にもし犯人がいないとするならば」


 ユタカは眼鏡に手をかける。


「まだ犯人はまだ中にいるかもしれません」

「どういうことだ?」

「先ほど固定電話を確認するとき窓から見たのですが、外の雪を踏んだ足跡はありませんでした。雪は一晩中降っていたから、つまりここからは誰も出ていない。犯人がこの中にいないなら、この家の中に僕らとトウジさん以外に誰かいるんですよ。その人がトウジさんを襲ったんです」


 誰もが目の前の人間を疑いたくない。

 確証はないが全員がその考えを受け入れようとしたそのとき。

 ガタン、と二階で物音がした。

 トウジは死んでいる。

 なら、二階には誰が?

 ミカコはフライパン、ヒロアキはゴルフクラブ、ユタカは灰皿、トシエは杖を持つ。

 足音を殺して二階に上がった。



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