第11話
翌朝、俺たちは早速、討伐隊のメンバーとともに森へ向かった。地面には朝露が残り、葉がこすれ合う音が静寂を揺らす。
先頭を行く守衛隊の隊長は、慎重に周囲を警戒しながら進む。
「聞いていた通り、この森には凶暴化した大形の魔物が出没している。奴は体が硬く、あちこちに毒の棘を持つ厄介な怪物だ。……くれぐれも油断するな」
全員が武器を構え、いつでも戦えるように警戒を強める。俺も木剣では心もとないと思い、今は借り物の鉄剣を手にしていた。
「ラゼル、緊張してる?」
「してるさ。でも、不思議とやれる気もしてきた。エリスやシエナから教わった技、少しは役立つはずだ」
「うん、私もラゼルがいれば大丈夫な気がする。いざってときは私の後ろに隠れたっていいんだからね」
「それは遠慮しとく。できれば俺が前に出て守りたいから」
そんな言葉を交わしていると、突然前方からうめき声のような音が聞こえる。
「気をつけろ、来るぞ……!」
隊長の声とほぼ同時に、森の茂みをかき分けるように、巨大な生物が姿を現した。体長は優に二メートルを超え、甲羅のように硬い外皮が覆っている。その表面には鋭利な棘がびっしり。確かに見た目からして凶暴そのものだ。
「こいつが噂の魔物か……あまり近寄りたくないね」
ロイドの冷ややかな声が後方から聞こえる。
「みんな構えろ! 左右から回り込んで一気に仕留めるぞ!」
隊長が号令をかけ、冒険者たちはそれぞれの得意技を繰り出そうと動き始める。
突如、魔物が甲高い声を上げると、毒の棘をばらまくように飛ばしてきた。
「うわっ、あぶねえ!」
隊員の一人が避けきれず、腕に棘が刺さり倒れ込む。すぐさま回復薬を使うが、その毒はかなり強力らしい。
「このままじゃやばいな。あの棘をどうにかしないと……」
「ラゼル、私たちが注意を引くから、その間に回り込んでみない? 硬い外皮の下には柔らかい部分があるはずだから、そこを狙うの」
「わかった! やるしかねえ!」
シエナと合図しあい、俺は魔物の背後を目指す。シエナは正面から挑発するように剣を振りかざし、魔物の目を引いてくれる。
「こっちよ、デカブツ! 私が相手になるわ!」
魔物は怒り狂ったように正面へ向かう。今だ、とばかりに俺は懐へ滑り込むように走る。
「何度も毒の棘を飛ばさせるな! 遠距離組は魔法や弓で牽制しろ!」
隊長の声に応じ、魔法使いや弓兵が一斉に攻撃を加える。
その隙に、俺は魔物の横腹へ剣を突き立てようとするが、外皮が硬くてまるで刃が立たない。
「くっ、全然切れない! けど……吸収だって何か役に立つはずだ!」
俺は思い切って剣を振るう感覚を“吸収”に集中させる。かつてエリスやシエナから得た斬撃のコツを、さらに研ぎ澄ますように意識。
「はあっ!」
一瞬、光をまとったような感覚が走り、剣先が外皮のすき間へ食い込む。
「今だよラゼル!」
「任せろ!」
シエナが魔物の首元を一閃し、そのあとを俺が追撃する。結果、魔物の鳴き声が小さく震え、勢いを失い始めた。
「やったか……?」
しかし油断した瞬間、魔物は最後の悪あがきで大きく体を振り回し、鋭い棘が俺たちへ向けて飛んできた。
「うわっ!」
その棘がシエナをかすめようとした瞬間、何者かが横から割り込んで防いでくれる。
「ったく、危なっかしいな」
見ると、それはロイドだった。コートの下から短剣を振るい、棘をはじき落としている。
「アンタ、助けてくれたのか?」
「別に大したことじゃないさ。報酬が減ったら困るからな」
そう言いながらも、彼は静かに息を整え、魔物の最期を見届けるように距離をとっている。
その後、守衛隊の隊長がとどめを刺し、魔物はついに動かなくなった。
「終わった……!」
俺は気が抜けて地面にへたり込む。シエナも肩で息をしながら笑みを浮かべた。
「まさかロイドが助けてくれるなんてね。……お礼を言ったほうがいいかな?」
「さあな。でも、あいつには気を許すなよ。……どうにも底が知れない」
こうして、俺たちは初めての大掛かりな討伐任務を乗り越えた。
だが、ロイドの不可解な行動と底知れない強さが、俺の胸に妙な警鐘を鳴らしている。これが何を意味するのか、まだわからない。
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