第10話
ある日の夕方、エリスとの稽古を終えた俺は、シエナの家の前で待ち合わせをしていた。すると、彼女が勢いよくドアを開けて出てくる。
「ラゼル、大変だよ。街の守衛隊から依頼が来てるんだって!」
「依頼? 俺たちみたいな半端者にか?」
「そうみたい。どうやら森で暴れてる魔物がいるって話、覚えてるでしょ? あれがさらに凶暴化して、近隣の村に被害が出てるんだって。それで、冒険者や腕に覚えのある人に協力要請が来たらしいの」
シエナは慌ただしく準備を始めながら説明を続ける。
「私も駆け出しだけど、一応剣術の心得はあるし、ラゼルも最近調子いいよね? だったら、いい経験になると思わない?」
「まあ……そうだけど、危険だろ?」
「もちろん危険だよ。でも、いつまでも訓練だけしてても強くなれないし、実戦で力を試すときが来たんじゃない?」
シエナの言う通りかもしれない。魔物との戦いを避けては成長できないだろうし、俺の“吸収”がどこまで通用するのか確かめるチャンスでもある。
「わかった。俺も行こう。ただし、無茶はしないようにしようぜ」
「もちろん。死んじゃったら意味ないもん」
こうして、俺たちは守衛隊の詰め所へ向かい、依頼の詳細を聞くことにした。
そこにはすでに何人かの冒険者風の連中が集まっている。ガタイのいい戦士や、ローブ姿の魔法使いらしき人もいるようだ。
「おっと、何だい君たち。こんな子どもが来たって役に立つのか?」
中年の守衛隊隊長らしき男が眉をひそめる。シエナが反論しようとすると、彼は首を横に振る。
「いや、今は一人でも多くの手が欲しいからな。せいぜい足手まといにならないように頼むよ。魔物は凶暴で手強いそうだ。うまく立ち回れないと、すぐに犠牲者が出るだろう」
「わかりました。……実力で証明してみせます」
シエナは臆せずにそう言い放ち、俺も意を決してうなずく。
「ラゼル、もう後には引けないわね」
「ああ、やるしかねえ。俺が身につけたものを実戦で試す時だ」
そんなやり取りをしていると、前方で見慣れたコート姿の男がこちらを見ていた。
「よう、やっぱり来たんだな。面白そうなことに首を突っ込みやがって」
「お前は……前に街角で俺に声をかけた男か」
「そうだ。俺の名はロイド。昔っからこういう仕事請け負ってるさ。ところでラゼル、お前の“吸収”とやらは本当に使えるんだろうな?」
またしてもスキルを知っているらしい口ぶり。ロイドの表情は底知れない笑みを浮かべている。
「俺が使えるかどうかは、お前に証明する義理はない」
「はは、いいねえ。その強気がいつまで続くかな。まあ、俺も勝手に期待してるぜ。何かあったら手助けしてやるかもな」
そう言い捨て、ロイドはさっさと歩き去っていく。怪しい奴だが、今は依頼をこなすのが最優先だ。
「なんか嫌な感じだね……ラゼル、あいつには気をつけたほうがいいよ」
「わかってる。けど、今は魔物を倒すことに集中しよう。こういう連中が集まってるってことは、それだけ危ない依頼ってことだ」
守衛隊の話では、すでに被害を受けた村人もいるらしい。心を引き締めておかないと、命を落とす危険だってある。
こうして、俺たちは森の討伐隊の一員として出発することになった。
森の奥に潜む魔物、そしてロイドという男。暗躍する影が、この先の運命を大きく変えるかもしれない――そんな嫌な予感が胸をよぎる。
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