第9話

 神殿での一件から数日が経ったある昼下がり。俺は街の広場で、簡単な剣の素振りをしていた。周囲は商人や旅人でにぎわっていて、そんな中でも鍛錬に励む俺の姿は少し浮いているかもしれない。


 すると、そこへひそやかな足音が近づいてきた。


「ラゼル様、少しお時間をいただけますか?」


「あ、アメリア? どうしたんだ。こんなところで会うなんて珍しい」


 アメリアは神殿のローブ姿のままだが、どこか落ち着かない様子だ。


「この前は女神様が強引な態度をとってしまって、本当に申し訳ありません。私……どうしても、あのままじゃ気が収まらなくて」


「いや、巫女であるあんたが謝ることじゃないさ。むしろ、あのとき味方してくれてうれしかったよ」


 そう言うと、アメリアは少しほっとしたように笑顔を見せてくれる。

 ローブの下に隠された体のラインはわからないが、上品で優しい雰囲気をまとっていて、シエナやエリスとはまた違った魅力を感じる。


「それで、今日はどうするんだ? 何か用があるんだろ?」


「あの……もしよろしければ、今後もラゼル様と情報交換をしたいんです。女神様の動向や、あなたのスキルのことなど、私も知りたいことが多いので」


「なるほど。俺としても、女神の企みには警戒してる。アメリアから情報をもらえるなら助かるな」


「よかった。そう言っていただけると私も嬉しいです。……それに、個人的に興味があるんです」


「俺に? いや、スキルにか?」


「両方……かもしれません。ラゼル様は、“吸収”というスキルをもらってから、すごく前向きに生きているように見えます。女神様に冷たくあしらわれたのに、全然めげずに努力を重ねて……。私はその姿に、何だか心打たれてしまったんです」


 頬を薄紅色に染めながらそう言うアメリアを見て、俺は心がくすぐったくなる。


「いや、そんな大層なもんじゃないさ。ただ、何もできないまま終わるのは嫌だから、がむしゃらにやってるだけだ」


「それでも十分すごいんです。私……実は小さい頃から巫女として育てられてきて、女神様に逆らうなんて考えたこともなかった。でも、ラゼル様を見ていると、力強く生きるってこういうことなのかなって思えるんです」


「アメリア……」


 彼女の瞳はまっすぐで、その奥にある純粋さが伝わってくる。神殿で仕える身ながら、俺のことをしっかりと見てくれているのがわかる。


「もし迷ったり、不安になったりしたら、いつでも言ってください。私ができることは限られているかもしれないけど、お力になりたいんです」


「ありがとう。じゃあ、そうだな……“吸収”がどこまで成長するのか、自分でも未知数だ。何か困ったことがあれば相談させてもらうよ」


「はい。ぜひ。またお話できる機会を作ってください。私も女神様の態度が気になるので、あれこれ調べてみます」


 アメリアはうれしそうに微笑むと、慌ただしく神殿へ戻っていった。

 こうして、俺は巫女アメリアと協力関係を築くこととなる。

 美女剣士のエリス、幼なじみのシエナ、そして巫女のアメリア……皆がそれぞれの形で俺を支えてくれる。


「この世界には、いい仲間が増えてきたな」


 そう思うだけで、女神との緊張も少しやわらぐ気がした。

 次はどんな成長を遂げるのか――俺自身、楽しみになってきた。

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