第2話

 スキル“吸収”とは、一体どんな効果があるのか。見た目には何も変わらないし、具体的な使用方法すらわからない。

 それでも、俺は「何か吸収する対象があればいいのかな」と考え、まずは剣術の基本から挑むことにした。


「さあ、いくわよラゼル。素振りなんて退屈だけど、基礎が大事だからね」


 シエナがにやりと笑いながら木剣を構える。彼女は子どもの頃から剣術道場に通っていたこともあって、その構えには無駄がなかった。


「お手柔らかにな」


「ふふ、私の華麗な剣を盗めるなら、遠慮なくやってみて。逆にできないようなら、もうちょっと努力しないとね」


「誰に向かって言ってんだ。……俺は負けねえぜ!」


 そう言い放って振り下ろした一撃は、まるで風を切るかのような音を立てる。

 しかし、木剣と木剣が触れあった瞬間、俺は衝撃で手がしびれた。


「くっ、シエナ、ほんとに強いな」


「まだまだよ。ほら、次!」


 何度も打ち合ううちに、俺の息は早くなっていく。けれど、不思議なことに妙な違和感もあった。


 ――何かが、俺の中に流れ込んでくる?


 シエナの剣さばきが、まるで自分の手の内で再現できる気がしてくる。ほんの少しだが、さっきまで見えなかった彼女の軌道が見えるようになる感覚。


「よし、今なら……」


 俺はシエナの剣を受け止めると、真似するようにカウンターで一撃を繰り出す。素振りの時とは比べ物にならない速度が出た。


「うそ!? 今、一瞬私と同じ軌道で振ったわよね?」


「ははっ、なんか吸収しちゃったみたいだな」


 笑う俺に対して、シエナは目を丸くする。


「なんだか想像以上ね、そのスキル。ちゃんと形になってるじゃない!」


「まだほんの少しだけどな。けど、確かに感触があった。人の技を自分の中に取り込めそうな……そんな気がする」


 女神に言われた「期待はずれ」という言葉は、今のこの手応えを感じれば、とんでもない見当違いなものに思える。

 俺はほんのわずかだが心が弾んだ。これなら地道に努力していけば、きっと大きな力になるはずだ。


「なら、どんどん私の剣を吸収してみなさいよ。俺に敵う相手がいないくらい最強の剣士になって……それで、私が守られちゃうかもしれないわね」


「それも悪くないが、まずは自分で守れるくらいにはなれよ」


「ふふん、そう簡単にはいかないわよ。私は自分の道も極めたいんだから」


 そんな言葉を交わし合いながら、俺たちはもう一度木剣を構え直す。

 地味に見えるこの“吸収”が、大きな可能性を秘めている――そんな予感を胸に、俺は次の一太刀を繰り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る