女神に冷遇された不遇スキル、実は無限成長の鍵だった
昼から山猫
第1話
俺の名はラゼル。ここは神々が人に“加護”を授ける世界だ。
生まれたばかりの子どもは神殿へ行き、女神からスキルを与えられる。戦士の道を歩む者は剣技の才能を、魔法使いになりたい者は魔力の制御を――そんなふうに、自分の将来を左右する特別な力が手に入るのが当たり前だった。
俺も例に漏れず、十五歳になった時に神殿で“女神の声”を受けた。だけど、それはあまりにもあっけなくて、そして残酷だった。
「あなたには……そうね、『吸収』というスキルを与えるわ。正直言って期待はずれね」
透き通るような美しい声。それなのに吐き捨てるような口調。
浮かび上がった女神の姿は、長い金髪と白いドレスが神々しかったが、その表情は明らかに落胆していた。
「まあ、がんばりなさい。どうせ大したことはできないでしょうけど」
そんな言葉を最後に、女神の光は消えてしまう。
俺は神殿の祭壇で一人ぽつんと取り残された。周囲の人々も「あれじゃ出世は無理だな」なんて、ひそひそ話をする。
情けなかった。せっかくのスキルなのに期待のかけらもなく、“ハズレスキル”扱いだ。
でも、だからといってここでくじけるわけにはいかない。
「……やってやる。女神に見返してやるからな」
そう自分に言い聞かせて、俺は拳を握りしめた。
翌日、俺はさっそく“吸収”というスキルを確かめるために、自宅の裏庭で小さな訓練を始める。
「よし、この木剣を使って素振りでもするか。……って、どうやって吸収すればいいんだ?」
スキルの詳細がわからないままでは、どんな練習をすべきかも見当がつかない。
ただ、感覚的には、何か技を覚えられそうな気がするんだよな。無根拠だけど、ひょっとすると何かのきっかけがあれば開花するかもしれない。
「ラゼル、そんな顔しないの。落ち込んでるわけ?」
そこへ声をかけてきたのは、幼なじみのシエナだった。黒髪のツインテールで、いつも元気な笑顔が印象的だ。細身の体に軽装鎧を着こなしていて、武芸の腕もなかなかいい。
「ま、まあな。女神様に『期待はずれ』って言われちまったし」
「何言ってるの。あんた意外としぶといんだから、大丈夫よ。むしろ変に目立つスキルをもらうより、じっくりと力を伸ばせるスキルのほうが強いかもしれないわ」
シエナは自信満々に笑う。俺だってその言葉を信じたい。
「俺もそう思ってる。今日から俺は、“吸収”を徹底的に追求してやる。女神の評価を覆してみせるぜ」
幸い、俺には投げ出すつもりはないし、どんな些細なことでも地道に積み重ねれば、いつかは大きな力になるんじゃないか。
そう信じるしかない。そう信じれば、俺はまだ戦える。
女神に冷遇された“ハズレスキル”――だけど、この手で本当に強い力にしてみせる。
大空を見上げながら、俺は大きく息を吸い込んだ。
「ここからが、俺の始まりだ」
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