第30話 覚醒する力
試練の迷宮を突破し、闇の宝珠を手にした真奈たちは、魔界の中央に位置する古の都「エルマリス」へ向かっていた。この都はかつて魔界全土を統治していた王の住処であり、現在は廃墟となっているが、宝珠の力を解放するための「目覚めの祭壇」があるという。
道中の空気は重苦しく、赤い月がますます不気味な輝きを放つ。風に混じる不協和音のようなざわめきが、真奈の胸に不安を呼び起こしていた。
◇
「ラザール、本当にこの宝珠が魔界を救う鍵なの?」
馬車の中、真奈は自分の手のひらで闇の宝珠を見つめながら問いかけた。その漆黒の輝きには微かな脈動が感じられ、まるで生きているかのようだ。
「確証はない。だが、闇の王が試練を課した以上、無意味なものではないだろう。」
ラザールの紅い瞳が真奈を真っ直ぐ見据える。その目には決意が宿っていた。
「まあ、あんまり考えすぎんなよ。」
イグナスが笑いながら肩をすくめた。
「けど、これはただの道具じゃない。私たちに試練を与えて、何かを確かめようとしていた……そう感じるんだ。」
真奈の言葉に二人が耳を傾ける。
「真奈の言う通りだ。」
ラザールが頷いた。
「この宝珠の力を解放すれば、何が起きるか分からない。だが、それが魔界の未来を左右するのは間違いない。」
その言葉に場が静まり、馬車の中に張り詰めた空気が漂った。
◇
到着したエルマリスは、かつての栄華を物語る巨大な石造りの建物が並んでいたが、そのどれもが崩れかけ、苔や蔦に覆われていた。真奈はその光景を見て、かつての魔界がどれだけ強大で繁栄していたのかを想像せずにはいられなかった。
「ここが祭壇のある場所か……」
ラザールが静かに呟いた。
「でも、あの赤い月……なんだか普通じゃない気がする。」
真奈が空を見上げると、赤い月がこれまで以上に不気味に輝いていた。その光が、都全体を覆い尽くしているように見える。
「注意しろ。この場所には何かが潜んでいる。」
イグナスが剣を抜き、周囲を警戒し始める。
◇
三人は祭壇のある中心部へと進んでいく。そこには巨大な円形の台座があり、古代の魔族の文字が刻まれていた。
「これが目覚めの祭壇か。」
ラザールが台座に手を置き、その刻まれた文字を読み取る。
「“闇の真実を知る者、力の代償を知れ”……代償?」
その瞬間、宝珠が真奈の手の中で光り輝き、浮き上がった。
「何か始まる……!」
真奈が驚きの声を上げると、周囲の空間が歪み始めた。黒い影がどこからともなく現れ、祭壇を囲むように形を成していく。
「これは……!」
影は人型の魔物となり、真奈たちに襲いかかろうとしていた。
「戦うぞ!」
ラザールが構え、イグナスも剣を抜いた。
◇
襲い来る魔物たちは強力で、一体一体が普通の魔族を凌駕する力を持っていた。ラザールの攻撃もイグナスの剣技も、圧倒するには至らず、次々と新たな魔物が現れる。
「きりがない……!」
イグナスが歯を食いしばりながら言う。
そのとき、真奈の目の前で宝珠がさらに強く輝き始めた。まるで彼女に呼びかけるかのようだった。
「これ……私が使うべきなの……?」
「真奈!」
ラザールが魔物の群れを振り払いつつ、叫んだ。
「お前が選んだのなら、恐れるな! その力を信じろ!」
その言葉に、真奈は決意を固め、宝珠に手を伸ばした。
「お願い……みんなを守れる力を!」
真奈が叫ぶと、宝珠が強烈な光を放ち、彼女を中心に闇と光が交錯するエネルギーが渦巻いた。魔物たちはその力に飲み込まれ、次々と消滅していく。
◇
光が収まり、真奈の周囲には誰も立ち入れないほどの静寂が訪れた。ラザールとイグナスは真奈を見つめ、言葉を失っていた。
「……私、無事だよね?」
真奈が震える声で口を開く。その声は確かに彼女のものだったが、目には黒と金が交じり合う不思議な輝きが宿っていた。
「お前……その力……」
ラザールが驚愕の表情を浮かべる。
「宝珠が私の中に……取り込まれたのかもしれない。でも、不思議と怖くない。この力で、きっと魔界を救える。」
真奈の言葉には確固たる決意が宿っていた。
◇
祭壇が再び静まり返り、赤い月の光も少しずつ和らいでいった。しかし、それと同時に新たな危機を告げる声がどこからともなく響いた。
「お前たちが力を手にしても、それは終わりではない。むしろ、真の闇はここから始まる。」
その声はかつての闇の王のものに似ていたが、どこか別人のようだった。
「真奈、これからが本当の試練だ。」
ラザールが静かに言い、剣を鞘に納めた。
「うん、私も……もう迷わない。」
真奈はラザールとイグナスの顔を見つめ、自分が選んだ道の先に何が待ち受けていようとも進む覚悟を決めていた。
◇
闇の宝珠の力を覚醒させた真奈。しかし、その力には隠された危険があった。エルマリスの奥深くに眠る“真実の扉”に挑む三人。そこで彼らが目にするものとは——?
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