第29話 試練の迷宮

暗闇に飲み込まれた真奈、ラザール、イグナスの三人が目を覚ましたとき、彼らは奇妙な空間に立っていた。薄い霧が漂う足元には、不規則に入り組んだ道。迷宮のような空間の上空は、見上げても果てがなく、光すら届かない深淵が広がっている。

「ここが闇の王の試練ってわけか……随分と厄介そうだな。」

イグナスが肩を回しながら周囲を見渡した。

「試練だと言っていたが、どうやって進むのかすら分からないな。」

ラザールが険しい顔つきで地面を軽く叩く。

「ここに来る直前、闇の王が言ってた……『心と体、そして絆を試す』って……。」

真奈は記憶を辿りながら呟いた。その言葉にラザールとイグナスの目が光る。

「絆か……だったら試されるのは俺たち三人の関係ってわけだ。」

イグナスがにやりと笑うが、いつもの軽口ではなく、どこか真剣な響きがあった。

「なら、油断は禁物だ。この空間そのものが何を仕掛けてくるか分からん。」

ラザールは真奈を守るように立ちはだかり、前方を指差す。

「とりあえず進むぞ。」

しばらく歩くと、霧が濃くなり、周囲がぼんやりと光り始めた。突然、真奈の耳元で誰かの声が聞こえた。

「帰りたいと思っているだろう?」

「え……?」

振り返っても、ラザールやイグナスは何も聞こえていない様子だった。

「君がここにいることで、迷惑している人がいるかもしれない。」

その声は、真奈の心の奥深くを抉るように響く。

「……そんなこと……ない……」

だが、否定しようとする真奈の目の前に映し出されたのは、学校での風景だった。笑顔の友人たち、平凡だけど幸せだった日常。しかし、その景色は次第に歪み、友人たちが真奈を責めるような言葉を放つ。

「どうして帰ってこないの?」

「みんな困ってるよ。」

「真奈のせいで——」

「やめて!」

真奈は耳を塞ぐが、その声は止まらない。

「真奈!」

ラザールの声が遠くから聞こえた。

「しっかりしろ!」

ラザールが真奈を抱きかかえ、冷静な声で語りかける。

「お前が今までどれだけ頑張ってきたか、俺たちは知っている。自分を疑うな。」

その言葉に、真奈の心が少しずつ安定していく。歪んだ風景は消え、再び迷宮の中に戻った。

「ありがとう……。」

真奈が小さな声で礼を言うと、ラザールはただ静かに頷いた。

再び歩き始めた三人だったが、今度は迷宮の壁が変形し、三人を隔ててしまった。

「真奈! イグナス!」

ラザールが叫ぶが、返事はない。

真奈は薄暗い道の中、一人で進むことを余儀なくされた。突然、目の前にラザールが現れた。

「ラザール……?」

だが、彼は冷たい目で真奈を睨みつける。

「なぜお前がここにいる?」

「え……?」

「お前なんか必要ない。この世界には、お前なんか——」

その言葉は、真奈の心を突き刺す。涙が溢れそうになる中、真奈は懸命に首を振った。

「違う……ラザールはそんなこと言わない!」

目の前のラザールが笑いながら消え、代わりに闇の王の声が響く。

「己を信じられるか、それとも疑うか……それが試練だ。」

「私は……私を信じる!」

真奈が叫ぶと、道が開け、再びラザールとイグナスの姿が見えた。

三人は迷宮の最深部に到達した。そこには二つの扉が並んでいる。一つは光に包まれた扉、もう一つは闇の渦が渦巻く扉だった。

「ここが試練の最後だろうな。」

イグナスが呟く。

「どちらを選ぶかで、未来が変わる。そういうことだ。」

ラザールが冷静に分析する。

「選択を迫られるのは、私……なのかな。」

真奈は扉を見つめた。

光の扉は、真奈の帰りたいと思う気持ちを象徴しているように見えた。闇の扉は、魔界に残るという覚悟を試しているように感じた。

「帰りたい……でも、私は——」

真奈は二人を振り返った。

「ラザール、イグナス……私は、この世界を守りたい。二人と一緒にいたい。」

そう言って、真奈は闇の扉に手を伸ばした。扉が開くと、眩い光が三人を包み込む。

光が収まり、三人は元の場所に戻っていた。闇の王の影が現れ、静かに語りかける。

「試練を超えた者よ……その覚悟、確かに見届けた。」

そして、真奈の手に黒い石が現れる。それは、魔界を救う鍵となる「闇の宝珠」だった。

「これが……」

真奈は宝珠を握りしめる。

「だが、これで終わりではない。真の試練は、これからだ。」

闇の王はそう言い残し、姿を消した。

試練を超え、闇の宝珠を手にした真奈たち。しかし、宝珠には隠された真の力があるという。それを引き出すためには、さらなる犠牲と覚悟が求められる。新たな敵と試練に向き合う彼らの運命は——?

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