第29話 試練の迷宮
暗闇に飲み込まれた真奈、ラザール、イグナスの三人が目を覚ましたとき、彼らは奇妙な空間に立っていた。薄い霧が漂う足元には、不規則に入り組んだ道。迷宮のような空間の上空は、見上げても果てがなく、光すら届かない深淵が広がっている。
「ここが闇の王の試練ってわけか……随分と厄介そうだな。」
イグナスが肩を回しながら周囲を見渡した。
「試練だと言っていたが、どうやって進むのかすら分からないな。」
ラザールが険しい顔つきで地面を軽く叩く。
「ここに来る直前、闇の王が言ってた……『心と体、そして絆を試す』って……。」
真奈は記憶を辿りながら呟いた。その言葉にラザールとイグナスの目が光る。
「絆か……だったら試されるのは俺たち三人の関係ってわけだ。」
イグナスがにやりと笑うが、いつもの軽口ではなく、どこか真剣な響きがあった。
「なら、油断は禁物だ。この空間そのものが何を仕掛けてくるか分からん。」
ラザールは真奈を守るように立ちはだかり、前方を指差す。
「とりあえず進むぞ。」
◇
しばらく歩くと、霧が濃くなり、周囲がぼんやりと光り始めた。突然、真奈の耳元で誰かの声が聞こえた。
「帰りたいと思っているだろう?」
「え……?」
振り返っても、ラザールやイグナスは何も聞こえていない様子だった。
「君がここにいることで、迷惑している人がいるかもしれない。」
その声は、真奈の心の奥深くを抉るように響く。
「……そんなこと……ない……」
だが、否定しようとする真奈の目の前に映し出されたのは、学校での風景だった。笑顔の友人たち、平凡だけど幸せだった日常。しかし、その景色は次第に歪み、友人たちが真奈を責めるような言葉を放つ。
「どうして帰ってこないの?」
「みんな困ってるよ。」
「真奈のせいで——」
「やめて!」
真奈は耳を塞ぐが、その声は止まらない。
「真奈!」
ラザールの声が遠くから聞こえた。
「しっかりしろ!」
ラザールが真奈を抱きかかえ、冷静な声で語りかける。
「お前が今までどれだけ頑張ってきたか、俺たちは知っている。自分を疑うな。」
その言葉に、真奈の心が少しずつ安定していく。歪んだ風景は消え、再び迷宮の中に戻った。
「ありがとう……。」
真奈が小さな声で礼を言うと、ラザールはただ静かに頷いた。
◇
再び歩き始めた三人だったが、今度は迷宮の壁が変形し、三人を隔ててしまった。
「真奈! イグナス!」
ラザールが叫ぶが、返事はない。
真奈は薄暗い道の中、一人で進むことを余儀なくされた。突然、目の前にラザールが現れた。
「ラザール……?」
だが、彼は冷たい目で真奈を睨みつける。
「なぜお前がここにいる?」
「え……?」
「お前なんか必要ない。この世界には、お前なんか——」
その言葉は、真奈の心を突き刺す。涙が溢れそうになる中、真奈は懸命に首を振った。
「違う……ラザールはそんなこと言わない!」
目の前のラザールが笑いながら消え、代わりに闇の王の声が響く。
「己を信じられるか、それとも疑うか……それが試練だ。」
「私は……私を信じる!」
真奈が叫ぶと、道が開け、再びラザールとイグナスの姿が見えた。
◇
三人は迷宮の最深部に到達した。そこには二つの扉が並んでいる。一つは光に包まれた扉、もう一つは闇の渦が渦巻く扉だった。
「ここが試練の最後だろうな。」
イグナスが呟く。
「どちらを選ぶかで、未来が変わる。そういうことだ。」
ラザールが冷静に分析する。
「選択を迫られるのは、私……なのかな。」
真奈は扉を見つめた。
光の扉は、真奈の帰りたいと思う気持ちを象徴しているように見えた。闇の扉は、魔界に残るという覚悟を試しているように感じた。
「帰りたい……でも、私は——」
真奈は二人を振り返った。
「ラザール、イグナス……私は、この世界を守りたい。二人と一緒にいたい。」
そう言って、真奈は闇の扉に手を伸ばした。扉が開くと、眩い光が三人を包み込む。
◇
光が収まり、三人は元の場所に戻っていた。闇の王の影が現れ、静かに語りかける。
「試練を超えた者よ……その覚悟、確かに見届けた。」
そして、真奈の手に黒い石が現れる。それは、魔界を救う鍵となる「闇の宝珠」だった。
「これが……」
真奈は宝珠を握りしめる。
「だが、これで終わりではない。真の試練は、これからだ。」
闇の王はそう言い残し、姿を消した。
◇
試練を超え、闇の宝珠を手にした真奈たち。しかし、宝珠には隠された真の力があるという。それを引き出すためには、さらなる犠牲と覚悟が求められる。新たな敵と試練に向き合う彼らの運命は——?
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