第31話 真実の扉

エルマリスの目覚めの祭壇で、闇の宝珠の力を覚醒させた真奈。しかしその代償として、真奈の中には宝珠の魔力が直接宿り始めていた。強大な力を手にした彼女だが、これが果たして救いとなるのか、それとも新たな災厄の火種となるのか——。

ラザールたちの前には、さらなる試練が立ちはだかる。闇の宝珠を解放した者だけが入ることを許されるという「真実の扉」。そこには、魔界の混乱の核心に迫る秘密が隠されているという。

「本当にここに答えがあるのか?」

イグナスが小声で呟きながら、真奈とラザールを見た。目の前にそびえ立つ巨大な扉は、不気味なほどの静寂をたたえている。その表面には無数の古代文字が刻まれており、まるで生きているかのように微かに輝いていた。

「答えを知るのが怖いのか?」

ラザールが少し挑発的にイグナスを見やる。

「違うさ。ただ、何が待ってるか分からないのが気に食わないだけだ。」

イグナスは肩をすくめたものの、手は剣の柄を離さない。

真奈は扉を見つめたまま、ふと自分の胸の内に宿った新たな力を感じていた。宝珠が自分を選んだ理由、それを証明する瞬間が訪れたのだと思うと、無意識に手が震えた。

「私が開けるね。」

決意のこもった声で真奈が言うと、ラザールとイグナスは静かに頷き、彼女の背後に立った。

真奈が手を触れると、扉は静かに動き始めた。重々しい音が響き、まばゆい光が中から溢れ出す。三人が中へ足を踏み入れると、そこは現実感を失わせるような異次元の空間だった。

「ここは……一体?」

イグナスが息を呑む。

周囲には星空のような闇が広がり、無数の光の粒が漂っている。その中央には巨大な水晶のようなものが浮かんでおり、中には複雑に絡み合う闇と光の流れが封じ込められていた。

「これが……魔界の記憶?」

ラザールが呟く。

水晶の中から声が響いた。それは老いた男のようでもあり、若い女性のようでもある、どこか異質な声だった。

「ようこそ、闇と光の境界へ。我はこの地に記されし真実を守る者。」

声が続ける。

「魔界はかつて、光と闇が均衡を保つ世界だった。しかし、あるとき闇の力が暴走し、均衡は崩れ去った。それを引き起こしたのは、初代魔王であるヴァルディア家の祖先。そして、その力を封じるために創られたのが、お前たちが手にした闇の宝珠だ。」

「俺の……祖先が?」

ラザールは動揺を隠せない表情で尋ねた。

「そうだ。だが、均衡を保つにはもう一つの存在——光の巫女が必要だった。彼女がいなければ宝珠の力は不完全だ。そして、その巫女の力を受け継ぐ者が、異界から召喚された少女、お前だ。」

声の言葉に、真奈は目を見開いた。

「私が……光の巫女……?」

「そうだ。お前はこの世界の崩壊を止めるための鍵であり、唯一の希望だ。だが覚えておけ、希望には必ず試練が伴う。そして、その試練を超えられなければ、全てが終わる。」

声が消えると同時に、空間全体が震え始めた。水晶の中の光と闇が激しくぶつかり合い、その勢いで裂け目が生じた。そこから黒い影が溢れ出し、三人に襲いかかってきた。

「避けろ!」

ラザールが真奈を抱き寄せて攻撃を防ぎ、イグナスが素早く剣を振るって影を退けた。

「こんなところで終わるわけにはいかない!」

真奈が叫び、手を差し出すと、彼女の中に宿った宝珠の力が再び覚醒し、光の盾が現れた。

「おお、すごいじゃねえか!」

イグナスが驚きの声を上げる。

「でも、力を使うたびに……体が重くなる。」

真奈は額に汗を浮かべながらも、盾を維持し続けた。

「無理をするな。」

ラザールが心配そうに声をかける。

「大丈夫。私は、みんなと一緒に魔界を救いたいんだ!」

その言葉に、ラザールの瞳が揺れた。

「お前が望むなら、俺が支える。何があっても一緒だ。」

影を退けたものの、水晶の裂け目はますます広がり、中から巨大な黒い獣が現れた。それは、かつて魔界を支配した闇の王の力の残滓だった。

「この姿……力そのものが具現化したのか。」

ラザールが剣を構える。

「俺たちで倒すぞ。イグナス、真奈、力を合わせるんだ!」

三人は互いを信じ、力を結集させて戦いを挑む。真奈は光の巫女としての新たな力を覚醒させ、ラザールとイグナスがその力を補完する形で獣を追い詰めていく。

「これで……終わらせる!」

真奈の手から放たれた眩い光が、獣を包み込み、ついにその影を消し去った。

戦いが終わり、裂け目は静かに閉じた。水晶の中の光と闇は再び穏やかに混ざり合い、均衡を取り戻したように見えた。

「これが真実……だけど、まだ終わりじゃない。」

真奈は静かに呟いた。

「その通りだ。」

ラザールが頷く。

「俺たちが目指す平和は、この一歩から始まる。これから何が待ち受けていようと、進み続けるしかない。」

イグナスは肩を回しながら言った。

「俺たちの旅はまだまだ続くってわけだな。真奈、しっかりついてこいよ!」

「もちろん!」

三人の絆はさらに強まり、新たな決意を胸に抱きながら、次なる地へと歩みを進めるのだった。

闇の王の影を退けた真奈たちだが、遠くから彼らを見つめる謎の人物がいた。その正体とは——?

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