第31話 真実の扉
エルマリスの目覚めの祭壇で、闇の宝珠の力を覚醒させた真奈。しかしその代償として、真奈の中には宝珠の魔力が直接宿り始めていた。強大な力を手にした彼女だが、これが果たして救いとなるのか、それとも新たな災厄の火種となるのか——。
ラザールたちの前には、さらなる試練が立ちはだかる。闇の宝珠を解放した者だけが入ることを許されるという「真実の扉」。そこには、魔界の混乱の核心に迫る秘密が隠されているという。
◇
「本当にここに答えがあるのか?」
イグナスが小声で呟きながら、真奈とラザールを見た。目の前にそびえ立つ巨大な扉は、不気味なほどの静寂をたたえている。その表面には無数の古代文字が刻まれており、まるで生きているかのように微かに輝いていた。
「答えを知るのが怖いのか?」
ラザールが少し挑発的にイグナスを見やる。
「違うさ。ただ、何が待ってるか分からないのが気に食わないだけだ。」
イグナスは肩をすくめたものの、手は剣の柄を離さない。
真奈は扉を見つめたまま、ふと自分の胸の内に宿った新たな力を感じていた。宝珠が自分を選んだ理由、それを証明する瞬間が訪れたのだと思うと、無意識に手が震えた。
「私が開けるね。」
決意のこもった声で真奈が言うと、ラザールとイグナスは静かに頷き、彼女の背後に立った。
◇
真奈が手を触れると、扉は静かに動き始めた。重々しい音が響き、まばゆい光が中から溢れ出す。三人が中へ足を踏み入れると、そこは現実感を失わせるような異次元の空間だった。
「ここは……一体?」
イグナスが息を呑む。
周囲には星空のような闇が広がり、無数の光の粒が漂っている。その中央には巨大な水晶のようなものが浮かんでおり、中には複雑に絡み合う闇と光の流れが封じ込められていた。
「これが……魔界の記憶?」
ラザールが呟く。
水晶の中から声が響いた。それは老いた男のようでもあり、若い女性のようでもある、どこか異質な声だった。
「ようこそ、闇と光の境界へ。我はこの地に記されし真実を守る者。」
◇
声が続ける。
「魔界はかつて、光と闇が均衡を保つ世界だった。しかし、あるとき闇の力が暴走し、均衡は崩れ去った。それを引き起こしたのは、初代魔王であるヴァルディア家の祖先。そして、その力を封じるために創られたのが、お前たちが手にした闇の宝珠だ。」
「俺の……祖先が?」
ラザールは動揺を隠せない表情で尋ねた。
「そうだ。だが、均衡を保つにはもう一つの存在——光の巫女が必要だった。彼女がいなければ宝珠の力は不完全だ。そして、その巫女の力を受け継ぐ者が、異界から召喚された少女、お前だ。」
声の言葉に、真奈は目を見開いた。
「私が……光の巫女……?」
「そうだ。お前はこの世界の崩壊を止めるための鍵であり、唯一の希望だ。だが覚えておけ、希望には必ず試練が伴う。そして、その試練を超えられなければ、全てが終わる。」
◇
声が消えると同時に、空間全体が震え始めた。水晶の中の光と闇が激しくぶつかり合い、その勢いで裂け目が生じた。そこから黒い影が溢れ出し、三人に襲いかかってきた。
「避けろ!」
ラザールが真奈を抱き寄せて攻撃を防ぎ、イグナスが素早く剣を振るって影を退けた。
「こんなところで終わるわけにはいかない!」
真奈が叫び、手を差し出すと、彼女の中に宿った宝珠の力が再び覚醒し、光の盾が現れた。
「おお、すごいじゃねえか!」
イグナスが驚きの声を上げる。
「でも、力を使うたびに……体が重くなる。」
真奈は額に汗を浮かべながらも、盾を維持し続けた。
「無理をするな。」
ラザールが心配そうに声をかける。
「大丈夫。私は、みんなと一緒に魔界を救いたいんだ!」
その言葉に、ラザールの瞳が揺れた。
「お前が望むなら、俺が支える。何があっても一緒だ。」
◇
影を退けたものの、水晶の裂け目はますます広がり、中から巨大な黒い獣が現れた。それは、かつて魔界を支配した闇の王の力の残滓だった。
「この姿……力そのものが具現化したのか。」
ラザールが剣を構える。
「俺たちで倒すぞ。イグナス、真奈、力を合わせるんだ!」
三人は互いを信じ、力を結集させて戦いを挑む。真奈は光の巫女としての新たな力を覚醒させ、ラザールとイグナスがその力を補完する形で獣を追い詰めていく。
「これで……終わらせる!」
真奈の手から放たれた眩い光が、獣を包み込み、ついにその影を消し去った。
◇
戦いが終わり、裂け目は静かに閉じた。水晶の中の光と闇は再び穏やかに混ざり合い、均衡を取り戻したように見えた。
「これが真実……だけど、まだ終わりじゃない。」
真奈は静かに呟いた。
「その通りだ。」
ラザールが頷く。
「俺たちが目指す平和は、この一歩から始まる。これから何が待ち受けていようと、進み続けるしかない。」
イグナスは肩を回しながら言った。
「俺たちの旅はまだまだ続くってわけだな。真奈、しっかりついてこいよ!」
「もちろん!」
三人の絆はさらに強まり、新たな決意を胸に抱きながら、次なる地へと歩みを進めるのだった。
◇
闇の王の影を退けた真奈たちだが、遠くから彼らを見つめる謎の人物がいた。その正体とは——?
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