第14話 裂け目の予兆
新たな扉をくぐり抜けた真奈たちは、紅い月がかつてなぜ魔界を覆うようになったのか、その起源に迫る真実の間へとたどり着いた。蒼の回廊の試練を乗り越えたことで、真奈は「鍵」としての力を少しずつ自覚し始めていたが、まだその全貌を理解してはいなかった。ラザールとイグナスは、そんな真奈をそばで支えながら、新たな謎を解き明かす旅路を共にする。
しかし、真奈たちが辿り着いたその先には、過去の因果が複雑に絡み合った危険な陰謀が待ち受けていた。
◇
真奈たちが足を踏み入れた場所は、不思議な光に満ちた広間だった。天井には魔界の歴史が描かれているような巨大な壁画が広がり、壁一面に浮遊する文字が淡く輝いている。それは古代魔族の言葉で、現在の魔族でも解読することが難しいものだった。
「ここは……何かの記録が残されている場所?」
真奈が壁を見上げながら呟くと、イグナスが軽く口笛を吹いた。
「すごいな……これ、全部何百年も前のものなんだろう? しかし古臭い割には、どこか生きているみたいな感じがするぜ。」
ラザールは目を細めながら壁画を見つめていた。
「この場所は、魔界の始まりを語る重要な記録だと言われている。しかし、それを守るために封印されたため、ここに足を踏み入れた者はほとんどいない。」
「封印……?」
真奈が疑問を口にした瞬間、床が淡い青い光を帯び始めた。その光が渦を巻くように集まり、やがて一人の女性の姿を形作った。
彼女は透き通るような薄いヴェールをまとい、優雅な佇まいで真奈たちを見下ろした。
「よくぞここまでたどり着いた、異界の者よ。そして紅き王子とその忠臣。」
ラザールが剣を抜き、真奈をかばうように立ちはだかる。
「お前は何者だ。」
女性は微笑みながら答えた。
「私はこの間の守護者にして、魔界の記憶を紡ぐ者。私の名はセリア。あなたたちが求める答えを授ける者でもある。」
◇
セリアは優雅に手を広げると、空間全体が変化し始めた。真奈たちは、まるで映像を見るかのように、魔界の遥か昔の出来事を目の当たりにする。
「かつて魔界は、調和の中に存在していました。しかし、一つの忌まわしい出来事がその均衡を崩したのです。」
映像には、かつての魔界の平和な光景と、そこに降り注ぐ紅い光が映し出されていた。それは、現在の紅い月のようだったが、より荒々しく、不気味な力を感じさせるものだった。
「その紅い光こそ、『裂け目』が生み出したもの。そしてその裂け目は、この地に存在する別の世界との接触によって引き起こされたのです。」
「別の世界……?」
真奈は驚きながらセリアに尋ねる。
「そう、かつて魔界は他の世界と繋がっていました。それが、あなたの故郷である『人間界』です。」
◇
「人間界と魔界が繋がっていた……?」
真奈はその言葉に衝撃を受けた。魔界に召喚されて以来、この世界がどこか人間界とは異なる存在であると感じていたが、二つの世界に直接的な繋がりがあったという事実は、彼女にとって想像を超えるものだった。
「だが、その繋がりが災厄をもたらした。」
ラザールがセリアの言葉を引き取る。
「紅い月はその災厄の象徴か。そしておそらく、俺たちの使命もそれと関係がある。」
セリアは静かに頷いた。
「裂け目を閉じる力を持つのは『鍵』である少女、真奈だけ。しかし、その力を完全に覚醒させるためには、あなた自身がこの運命を受け入れる必要があります。」
「運命を……受け入れる……?」
真奈は不安げな表情を浮かべるが、ラザールがそっと彼女の肩に手を置いた。
「お前はここまでよくやってきた。だが、この先は、俺たちも共に背負う。」
「ラザール……」
◇
セリアの導きによって、真奈たちは紅い月と裂け目の力が魔界と人間界の運命を深く繋いでいることを知る。そして、その裂け目を閉じることが魔界を救う唯一の方法であると同時に、真奈が人間界へ戻るための鍵でもあるという真実を突きつけられる。
「裂け目を閉じれば、私は……人間界に帰れる?」
真奈の問いにセリアは静かに頷く。
「しかし、それには大きな犠牲が伴うでしょう。裂け目を閉じることは、二つの世界を完全に断絶することを意味します。」
真奈はその言葉に息を飲む。自分が戻る代わりに、この魔界と魔族たちとの繋がりを永久に失うことになるのかもしれない。その選択の重さが、真奈の心にのしかかった。
「それでも、やるしかない……!」
真奈の瞳に強い決意が宿る。
「みんなを救うためなら、私は何だってやる!」
その言葉に、ラザールとイグナスも微笑みを浮かべる。
「それでこそ、俺たちの真奈だ。」
◇
セリアから別れを告げられた三人は、次なる試練の地へ向かうことを決意する。そこでは、裂け目を閉じるための最後の手がかりが待っているという。
しかし、その道中、真奈の胸には新たな疑問が芽生え始めていた。紅い月が生まれた原因となった「裂け目」は本当に自然に生じたものなのか。それとも、誰かの意図によって作り出されたものなのか——。
紅い月の謎は、次第に魔界全土を巻き込む真実の核心へと迫っていく。果たして、真奈たちはその真実とどう向き合うのか。そして、裂け目を閉じるという選択が彼らにもたらす未来とは——。
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