第13話 紅き月の秘密

裂け目の祭壇での試練を乗り越えた真奈たちは、新たな目的地「蒼の回廊」を目指していた。そこには、魔界を覆う闇と紅い月の真実が隠されていると言われている。真奈が「鍵」としての力を完全に覚醒させるためには、この地でさらなる試練を受ける必要があるという。

紅い月が不気味な輝きを増す中、旅を続ける三人の間には、それぞれの胸中に秘めた思いが渦巻いていた。

「ここが回廊への入口か……ずいぶん静かだな。」

イグナスが周囲を見回しながら呟いた。目の前に広がるのは、青白い光を放つ巨大な洞窟だった。壁面には古代魔族の文字が刻まれており、どこか神秘的でありながら不気味な雰囲気を醸し出している。

「静かすぎる。気を抜くな。」

ラザールの鋭い声に、真奈は頷きながら歩みを進めた。しかし、洞窟内に足を踏み入れると同時に、奇妙な音が響き渡る。それは低いうなり声のようであり、誰かが囁いているかのようでもあった。

「これ……何の音……?」

真奈が不安げに呟くと、イグナスが剣を抜きながら冗談めかして言った。

「歓迎の音楽ってわけじゃなさそうだな。」

その時、洞窟内の空間が歪み、闇から無数の影が現れた。それは魔族でも見たことのない奇妙な存在で、目のない顔と鋭い爪を持っていた。

「くるぞ!」

ラザールが剣を構え、真奈を背後にかばう。影たちはすさまじい速さで三人に襲いかかってきた。

「真奈、離れてろ!」

ラザールとイグナスが次々と影を切り伏せるが、影たちは倒してもすぐに復活し、さらに増えていくように見えた。

「これじゃきりがない……!」

焦りの色を浮かべるイグナスに対し、ラザールは冷静だった。

「これは試練だ。恐れを抱けば抱くほど、奴らは増え続ける。」

「恐れ……」

真奈はラザールの言葉を聞き、影たちがどこか自分たちの感情に反応しているように見えることに気づいた。

「私が、何とかしなきゃ……」

恐る恐る前に出た真奈の胸元が淡く光り始める。その瞬間、影たちが動きを止めた。

「真奈!」

ラザールが叫ぶが、真奈は一歩も引かなかった。胸の中に湧き上がる不思議な感覚に従い、手を前に差し出す。すると、光がさらに強まり、影たちは苦しむように消えていった。

「……やった?」

真奈がそう呟くと同時に、洞窟の奥から声が響いた。それは低く、威厳に満ちた声だった。

「鍵の力を目覚めさせたか、小さき者よ。」

声の主は、洞窟の奥に鎮座する巨大な石像だった。その石像はゆっくりと動き出し、青白い光を放つ瞳で真奈たちを見下ろした。

「私は蒼の回廊の守護者。ここに来た者よ、その目的を述べよ。」

ラザールが一歩前に出て答える。

「魔界を覆う混乱の原因を探り、裂け目を閉じる方法を見つけるためだ。」

「そのためには、お前たちの覚悟を試さねばならぬ。鍵の者よ、お前が真にこの世界を救うに値する存在か、証明せよ。」

その言葉と共に、真奈の足元に魔法陣が浮かび上がった。

「えっ、私が……?」

真奈は驚きながらも、ラザールの視線を感じて深呼吸した。

「……わかりました。私にできることがあるなら、試してみます!」

魔法陣が輝き、真奈の目の前に幻想的な空間が広がった。そこには、これまでの旅で出会った魔族たちの姿が浮かび上がっている。しかし、その姿はどれも苦しそうで、暗い影に覆われていた。

「これは……どういうこと……?」

声が響く。

「お前が選ぶべきは、魔族たちを救うために己を捧げる道か、それとも己を守る道か。どちらを選ぼうとも、代償は免れぬ。」

真奈は足元に広がる選択肢を見つめた。

「私が……選ばなきゃいけないの……?」

その時、ラザールの声がどこからか聞こえた。

「真奈、選べ。だが、お前がどうしようと、俺たちはお前を支える。」

真奈は涙をこらえながら、強く頷いた。

「私は……みんなを守りたい。そのために、できることを全部やる!」

そう叫ぶと同時に、真奈の体が光に包まれ、選択肢は消え去った。

幻想が消え、現実に戻った真奈は蒼の回廊の守護者と対峙していた。

「よくぞ決意を示した。お前には、この先の道を進む資格がある。」

守護者が手をかざすと、洞窟の奥に新たな扉が現れた。その扉の向こうには、魔界の真実とさらなる試練が待ち受けている。

「ありがとう……」

真奈は扉を見つめながら、心の中で覚悟を新たにした。ラザールとイグナスがそばに来て、彼女の肩に手を置く。

「よくやったな、真奈。」

ラザールの言葉に、真奈は小さく微笑んだ。そして、三人は揃って扉の向こうへと歩みを進めるのだった。

紅い月の謎がついに明らかになるその時、真奈とラザール、そして魔界の運命は大きく揺れ動いていく——。

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