第12話 裂け目の向こうに揺れる真実

暗黒の森の遺跡で得た手がかりを元に、真奈たちは次なる目的地、「裂け目の祭壇」を目指していた。そこは、魔界の混乱の源である「裂け目」が開いた場所であり、真奈がその力を試される最後の地とされている。

道中、空気は次第に重くなり、空を覆う紅い月はその輝きを増していた。まるで魔界そのものが二人を拒んでいるような感覚に、真奈は胸の奥で不安を募らせる。

「……これが最後の試練になるんだろうな。」

ラザールの声は静かだったが、その瞳には決意が宿っていた。

「でも、裂け目を閉じるには私が……」

真奈が言いかけた言葉に、イグナスが振り返り、軽く肩を叩いた。

「そんな暗い顔するなよ。お前なら大丈夫さ。俺もラザールもついてるからな。」

彼の無邪気な笑顔に励まされ、真奈は小さく頷いた。それでも、自分が「鍵」としてどれだけの力を求められるのか、その先に待つ運命がどんなものかを考えれば考えるほど、不安は消えないままだった。

長い旅路を経て、ついに三人は目的地に到着した。「裂け目の祭壇」と呼ばれる場所は、魔界の中心に位置し、地面には無数の黒い亀裂が走っていた。そこから吹き出す暗黒の気配が、三人を容赦なく包み込む。

「ここが……裂け目の中心……」

真奈は目の前にそびえる巨大な石碑を見上げた。石碑には古代の魔族の文字が刻まれており、その中央には、まるで何かが埋め込まれていたかのような深い窪みがあった。

「裂け目を閉じる鍵……それがお前だと言われている理由は、ここで明らかになるだろうな。」

ラザールは剣を抜き、周囲を警戒しながら進む。イグナスもまた、冗談を言う余裕をなくしていた。

「真奈、何か感じるか?」

ラザールの問いかけに、真奈は小さく頷く。

「はい……何かが、私を呼んでいるみたいです。」

その時だった。突然、地面が揺れ、暗黒の亀裂から巨大な黒い影が現れた。それは、この地を守る「封印の守護者」と呼ばれる存在だった。無数の目と触手を持つその魔物は、空間を歪めるようにして三人に迫ってきた。

「来たな……!」

ラザールが剣を振りかざし、イグナスも即座に応戦する。しかし、その魔物の力はこれまでの敵とは比べ物にならないほど圧倒的だった。

「真奈、早く鍵を探せ! こいつの相手は俺たちがする!」

ラザールが叫ぶが、真奈はその場に立ち尽くしていた。彼女の頭の中には、先ほどから聞こえる不思議な声が響いていた。

「お前が裂け目を閉じる者……だが、それは全てを犠牲にする覚悟が必要だ……」

「犠牲って……何を犠牲にしろって言うの……?」

真奈の呟きに応えるように、声はさらに響き渡った。

「お前自身の存在……異界から来た者の力を捧げることで、裂け目は完全に閉じられる……」

真奈は、石碑の前に立ち、手をかざした。その瞬間、石碑が淡い光を放ち始める。

「真奈!」

ラザールが声をかけたが、彼女は振り向かなかった。代わりに、彼女の口から静かな言葉が零れた。

「私が……鍵なんですね。」

その言葉を聞いたラザールの表情が一瞬で険しくなる。

「まさか、お前自身を犠牲にするつもりか?」

「でも、そうしないと裂け目は閉じられないんです。このままでは、魔界も、ラザールさんたちも……」

ラザールは真奈の腕を掴み、強く言い放つ。

「お前を失ってまでこの世界を救いたいとは思わない! 俺たちがやるべきことは、お前を犠牲にしない方法を見つけることだ!」

その強い声に、真奈は目を見開く。

「でも、そんな方法……」

「探すんだ。それが俺たちの戦いだ!」

イグナスもまた、笑いながら言葉を続けた。

「お前がいなくなったら、俺たちの旅もつまらなくなるだろ?」

二人の言葉に、真奈は涙を浮かべながら頷いた。

その時、石碑が再び光を放ち、真奈の胸元から淡い光の球体が現れた。それは、真奈の「鍵」としての力が具現化したものだった。

「これが……私の力……?」

光の球体がゆっくりと石碑に吸い込まれていくと、裂け目から噴き出していた暗黒の気配が徐々に弱まっていく。守護者もその動きを止め、静かに消滅した。

「裂け目は……閉じかけている。でも、完全ではない……?」

ラザールが険しい顔で石碑を見つめる。

「おそらく、完全に閉じるには、別の試練が必要なんだろう。」

イグナスが呟くと、ラザールは静かに頷いた。

「これで終わりじゃない。だが、一つの壁を越えたのは確かだ。」

真奈は深く息を吐き、二人に向かって微笑んだ。

「次も一緒に乗り越えましょう。」

その言葉に、ラザールもイグナスも笑みを浮かべるのだった。

裂け目の試練を乗り越え、さらなる真実と困難が待つ旅路へと進む三人。その絆はさらに強まり、真奈の心には新たな希望が芽生えていた。

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