第11話 裂かれた絆、忍び寄る闇

氷の賢者から「魔界の裂け目」に関する手がかりを得た真奈たちは、次なる目的地「暗黒の森」へと向かっていた。そこには魔界の歴史を記録する遺跡があり、次の試練に関する重要な情報が隠されているという。しかし、その地は魔界でも特に危険なエリアとされ、入った者の多くが消息を絶っている場所だった。

「暗黒の森……名前だけで嫌な予感しかしないね。」

イグナスが肩をすくめて笑うが、その表情にはわずかな緊張が見え隠れしている。肩の傷は癒えたものの、まだ完全に回復したわけではなく、動きにも少しぎこちなさが残っている。

「賢者が言っていた遺跡を見つけなければ、進むべき道がわからない。どんな危険が待っていようと行くしかない。」

ラザールは冷静な口調で告げたが、視線はしきりに真奈の方へ向けられていた。彼女が危険に巻き込まれることを恐れる気持ちを隠しきれないでいる。

「大丈夫です、ラザールさん。私、皆さんの足手まといにはなりません。」

真奈の言葉にラザールは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目を細めて頷いた。

暗黒の森は想像以上に不気味だった。昼間でも空は黒雲に覆われ、周囲には怪しい霧が立ち込めている。木々の間から聞こえる不気味な囁き声が、一行の緊張をさらに高めていた。

「気を抜くな。この森では、心を乱された者から餌食になる。」

ラザールの声が静寂を裂くように響いた。その瞬間、真奈は耳元で誰かの声を聞いた気がして振り返るが、そこには誰もいなかった。

「……い、今のは?」

「森が仕掛けてきているんだ。惑わされるな。」

イグナスが苦笑いを浮かべながら言ったが、その目には警戒の色が宿っていた。

森を進むうちに、突然、周囲の霧が濃くなり、一行は視界を奪われた。

「ラザールさん! イグナスさん!」

真奈が叫ぶが、応答はなく、気づけば彼女は一人きりになっていた。周囲には漆黒の木々と不気味な静寂だけが広がっている。

「どうしよう……」

不安に駆られながらも、真奈は深呼吸して落ち着こうと努めた。その時、霧の中から何かが近づいてくる気配がした。

「真奈……」

それはラザールの声だった。しかし、その姿を目にした瞬間、真奈は息を呑んだ。

現れたラザールは、普段の彼とは違い、冷たい笑みを浮かべ、紅い瞳が怪しく光っていた。

「お前は結局、俺たちの世界に混乱をもたらす存在なんだ。」

「そんな……ラザールさんが、そんなこと言うわけない……!」

真奈は後ずさるが、ラザールの影が迫ってくる。その時、彼女は突然、何者かに腕を掴まれた。

「落ち着け、本物じゃない!」

振り返ると、そこにはイグナスが立っていた。彼は苦笑いを浮かべながら真奈を引き寄せる。

「そいつは『幻影』だ。この森はお前の恐怖や不安を具現化して襲ってくるんだよ。」

「じゃあ、さっきのラザールさんも……」

「そうだ。本物のラザールならそんなこと言わないさ。」

イグナスが軽く肩を叩くと、真奈はほっと息をついた。

再び合流した三人は、ついに遺跡へとたどり着いた。しかし、遺跡の入り口には巨大な魔物が待ち構えていた。それは鋭い牙と無数の触手を持つ異形の存在で、遺跡を守る「番人」とされる存在だった。

「これは……簡単には突破させてくれなさそうだな。」

ラザールが剣を構え、イグナスもまた武器を手にした。しかし、真奈は思いつめた表情で二人を制した。

「待ってください。この番人、攻撃してはいけない気がします。」

「どういうことだ?」

ラザールが眉をひそめると、真奈は遺跡の壁に刻まれた模様を指さした。そこには古代文字で「心の鍵を示せ」という言葉が記されていた。

「もしかしたら、この魔物を力で倒すんじゃなくて、何か別の方法で通してもらうべきなんじゃ……」

真奈が言い終える前に、魔物が低い唸り声を上げ、触手を振り上げてきた。

「考えている暇はなさそうだな!」

イグナスが叫び、ラザールが魔物の攻撃を受け止める。しかし、その力は凄まじく、ラザールでさえ押され始めていた。

「真奈、何か思いついたなら急げ!」

ラザールの叫びに、真奈は必死で古代文字の意味を考えた。「心の鍵」とは何を指しているのか――。

「そうか……!」

真奈は手に持っていた魔導書を開き、自分の胸に手を当てた。そして、静かに目を閉じる。

「お願い、この世界を守りたいっていう私の想いを届けて……!」

すると、彼女の体から淡い光が放たれ、それが魔物を包み込んだ。魔物はしばらく抵抗していたが、次第に動きを止め、やがて穏やかな表情を見せた。

「お前の言う通りだったな……」

ラザールが剣を下ろし、魔物が道を開けるのを見て呟いた。

遺跡の奥に進むと、そこには巨大な水晶が鎮座していた。水晶の中には、魔界の歴史が映し出されていた。

「これが……魔界の裂け目の真実?」

水晶には、かつて魔界を二分した大戦と、その結果として生まれた「裂け目」の光景が映し出されていた。そして、その裂け目を閉じるためには、「鍵」としての真奈の力が必要であることも記されていた。

「俺たちが探しているのは、これだ。」

ラザールの瞳に決意の光が宿る。しかし、その一方で真奈は、自分の運命がさらに重いものとなったことを実感し、心の中で覚悟を固めるのだった。

「どんな困難があっても……私はやり遂げる。」

真奈の言葉に、ラザールとイグナスもまた静かに頷いた。闇が深まる中、三人の絆はさらに強まっていく――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る