第10話 揺れる絆と決意の誓い
影の城を後にした真奈たちは、水晶に宿る新たな手がかりを探るため、魔界の北部に広がる氷雪地帯「白の荒野」へと向かっていた。この地には、魔界の古代知識を受け継ぐ「氷の賢者」がいると伝えられている。しかし、その道中には厳しい寒さと、荒野を支配する氷狼たちの脅威が待ち受けている。
◇
「寒っ……!」
真奈は身を縮め、持っていたマントをさらにきつく巻き付けた。魔界の空気には慣れてきたものの、この氷雪地帯の冷たさは別格だった。
「ここまで冷えると、俺の剣も凍りそうだな。」
イグナスが軽口を叩きながら雪を踏みしめる。彼の銀髪は霜でさらに白みを帯びており、いつも通りの軽い態度にも疲労が見え隠れしている。
「文句を言う暇があるなら、足元に気をつけろ。この地の氷は不意に割れることもある。」
ラザールの声はいつも以上に冷静だったが、真奈をちらりと見て、そっと自分のマントを肩から外すと彼女にかけた。
「いいの?」
「お前が凍えて動けなくなれば、俺たち全員が危険に晒される。それだけだ。」
彼の不器用な言葉に、真奈は小さく笑みを浮かべた。
◇
荒野を進む中、突然、周囲の空気が変わった。雪に覆われた地面が振動し、遠くから低いうなり声が聞こえてくる。
「来たな……氷狼だ。」
ラザールが剣を構えた瞬間、周囲の雪の中から鋭い氷の牙を持つ狼が姿を現した。白銀の毛並みが美しいが、その目は赤く輝き、容赦のない殺意を宿している。
「真奈、後ろに下がれ!」
イグナスが叫び、剣を抜いて狼たちに飛びかかる。彼の動きは素早く、一匹また一匹と倒していく。しかし、狼の群れは次々と現れ、三人を包囲していく。
「数が多すぎる……!」
真奈は恐怖に震えながらも、何とか役に立ちたいと本を手に取り、ページを開いた。しかし、そこに記されているのは見慣れない古代文字ばかりで、解読できない。
「落ち着け、真奈。お前ならできる!」
ラザールの声が真奈の耳に届いた。彼は狼の群れを相手にしながらも、彼女に向けて力強い眼差しを送っている。
「私は……できる!」
真奈は目を閉じ、集中した。その瞬間、本が輝き始め、彼女の頭の中に言葉が流れ込んできた。
「『氷を砕く陽光よ、この地を照らせ』……!」
真奈が詠唱を終えると、手の中の本が眩しい光を放ち、氷狼たちを包み込む。その光は彼らの氷の身体を溶かし、次第に群れを消し去っていった。
「やった……!」
息を切らす真奈に、ラザールが駆け寄る。
「よくやった。お前がいなければ危なかった。」
彼の言葉に、真奈は小さく頷いたが、その時、背後に別の狼が跳びかかってくる気配を感じた。
「危ない、真奈!」
イグナスが間に入って狼を斬り捨てたが、その刃は深く刺さらず、狼は彼に反撃を試みた。
「イグナス!」
ラザールが即座に駆けつけ、狼を完全に仕留めたが、イグナスは肩に深い傷を負っていた。
「これくらい、大したことないさ……」
そう笑う彼だったが、傷口からは黒い液体が染み出していた。それは、魔界特有の呪いを帯びた毒だった。
◇
傷ついたイグナスを連れ、三人はなんとか荒野を進み、氷の賢者が住むとされる洞窟にたどり着いた。洞窟の奥に進むと、そこには透き通るような青い肌を持つ女性が待ち受けていた。
「……これが、氷の賢者?」
真奈がつぶやくと、女性は静かに頷いた。
「あなたたちが私を訪れるとは、噂以上の勇気を持っているようね。」
彼女は真奈に目を留め、微笑むと、次に傷ついたイグナスに視線を移した。
「彼の傷は普通の治療では癒せない。だが、あなたがいれば救えるわ。」
「私が……?」
戸惑う真奈に、氷の賢者は、彼女が持つ「鍵」としての力を使い、呪いを浄化する方法を教えた。それは、自分の魔力を引き出し、仲間へと分け与えるという危険を伴う行為だった。
「もし失敗すれば、あなた自身の命を削ることになる。それでも、彼を助けたいと思うのなら……」
「……助けます。」
真奈の決意は揺るがなかった。彼女の言葉に、ラザールは驚きながらも、そっと手を差し伸べた。
「無理はするな。だが、俺たちはお前を信じる。」
イグナスもまた弱々しく笑いながら言った。
「……頼むよ、妹みたいなもんだしな。」
◇
真奈が賢者の指示に従い呪いを浄化すると、洞窟全体が暖かな光に包まれた。イグナスの傷も次第に癒え、毒の影響が消えていくのを感じた。
「助かったぜ、真奈……」
「本当によかった……!」
涙を流す真奈を、イグナスは軽く頭を撫でて慰めた。
◇
その後、氷の賢者から次なる試練についての手がかりを得た三人は、再び旅を続けることになる。真奈は仲間を守るための力を得たが、それは同時に彼女の「鍵」としての役割が、仲間の命をも左右する重責であることを自覚させた。
「どんなことがあっても……私は皆を守る。」
彼女の決意はさらに強まり、ラザールもまたそんな真奈の成長を目の当たりにし、心を揺らすのだった。
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