第9話 孤高の城と影の謀略

霧深き森を抜けた真奈たちは、魔女から託された本に記された次の手がかりをもとに、「影の城」と呼ばれる場所を目指していた。この城は、かつて魔界の学者たちが集い、強力な魔術や知識を蓄えた地だったが、今では謎めいた存在によって支配され、近づく者を寄せ付けないと言われている。

「影の城か……名前からして歓迎される感じじゃないな。」

イグナスが肩をすくめながら冗談を飛ばす。しかしその目は警戒心に満ちていた。

「気を緩めるな。この城はただの遺跡じゃない。今も『影』が生きている。」

ラザールの厳しい声に、真奈も気を引き締めた。

「でも、この本が導いてくれるはずだよね。」

真奈は霧の魔女からもらった本を握りしめる。それはまだ全てのページが開かれておらず、次の鍵を見つけることで新たな道が示されるようになっているという。

影の城に到着した三人を迎えたのは、異様な静けさだった。城の外壁は朽ちかけているにもかかわらず、内部から漂う威圧感は強烈だ。真奈は息を呑みながら、その重々しい扉に手をかけた。

「開けるよ……!」

重い扉がきしむ音とともに開き、冷たい空気が流れ出てきた。中は暗闇に包まれており、足を踏み入れるたびに床がひんやりとした感触を伝えてくる。

「誰かいるのか……?」

イグナスが声を上げるが、返事はない。代わりに、城の奥から微かな囁き声が響いてきた。それは耳元で囁かれているかのように近く、しかし正体は掴めない。

「気をつけろ。これは単なる声じゃない、魔術だ。」

ラザールが剣を抜き、周囲に注意を向けた。

城の中心部にたどり着くと、三人は一つの巨大なホールに出た。中央には古びた祭壇があり、その上には奇妙な模様が刻まれた水晶が鎮座していた。

「これが……鍵なの?」

真奈が一歩近づこうとした瞬間、ホール全体に影が渦巻き始めた。

「待て、真奈!」

ラザールが真奈を引き戻したその瞬間、水晶が黒い霧を噴き上げ、そこから人影が現れた。

「よくここまで来たな、侵入者ども。」

影の中から現れたのは、黒いローブをまとった魔族だった。その顔は隠れているが、紅い瞳が真奈たちを鋭く睨んでいる。

「お前は……何者だ!」

ラザールが問いかけると、男は低い声で笑った。

「私はこの城の主にして、影を司る者。ここに来た者には、等しく試練を与える。」

その言葉とともに、影が生き物のように動き出し、ホール全体を埋め尽くした。

「これは……!」

真奈たちの周囲に、無数の黒い獣が現れた。それらは影の一部でありながら、実体を持ち、牙と爪を振りかざして襲いかかってくる。

「避けろ、真奈!」

ラザールが獣を斬り払うが、その数は尽きることがない。イグナスも果敢に戦うが、次々と湧き出る影の群れに追い詰められていく。

「どうしよう……こんなの、勝てるの?」

真奈は恐怖に震えながらも、本から微かな光が漏れ出しているのに気づいた。

「この光……!」

彼女が本を開くと、新たなページが現れ、そこには「影を浄化する詠唱」が記されていた。

「これを……読めば……!」

真奈は震える声で詠唱を唱え始めた。その声が響くたびに、影の獣たちが苦しげに身をよじる。

「やったぞ、効いている!」

イグナスが叫び、ラザールもその隙に攻撃を繰り出す。真奈の声が次第に力強くなり、最後の一節を唱えた瞬間、光がホール全体を包み込んだ。

影が消え去った後、ホールには静けさが戻った。水晶もまた透明な輝きを取り戻し、中央に浮かび上がる。

「やった……!」

真奈はほっと息をついたが、その時、影の男が再び姿を現した。

「お前たちの力、確かに見せてもらった。しかし、この試練は始まりに過ぎない。」

男は冷たい声で言い残し、影とともに消えていった。

「これで……終わりじゃないんだね。」

真奈は水晶を手にしながら呟いた。その目には決意の色が宿っている。

「だが、お前は確実に強くなっている。次もきっと乗り越えられる。」

ラザールが静かに言い、真奈の肩に手を置いた。イグナスも笑顔で頷く。

「ま、あいつの言う『次』ってのが何だか分からんが、俺たちならどうにかなるだろ。」

こうして三人は新たな手がかりを手にし、次なる旅路へと歩みを進めるのだった。しかし、その背後では、新たな闇が静かに蠢いていた——。

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