第8話 霧深き森の守護者

砂漠の遺跡での試練を乗り越えた真奈たちは、新たな手がかりを求めて「霧深き森」と呼ばれる場所に向かっていた。そこは魔界でも特に神秘的な土地で、古くから数多の魔族が「迷いの森」として恐れる場所だった。

「この森のどこかに次の手がかりがあるらしいが、そう簡単には見つからなそうだな。」

イグナスが森の入り口に立ち、茂る木々を眺めながら言う。霧が視界を覆い尽くし、一歩先さえも見通すことができない。

「迷ったら戻れないって言われてる場所なんでしょ?大丈夫かな……。」

不安げな表情を浮かべる真奈。しかし、ラザールは迷いのない足取りで森に入っていく。

「お前が鍵なら、この場所もお前を導くだろう。自分を信じろ。」

その一言に、真奈は勇気をもらい、小さく頷いてラザールの後を追った。

森の中は昼夜の区別がつかないほど暗く、霧が冷たく体にまとわりついてくる。鳥のさえずりもなく、不気味な静けさが漂っていた。

「ここ、本当に何もいないのかな……?」

真奈が小声で尋ねた瞬間、茂みがガサガサと音を立てた。

「出るぞ、気をつけろ!」

ラザールが剣を抜き、イグナスも盾を構えた。その刹那、茂みから巨大な獣が飛び出してきた。漆黒の毛並みと鋭い爪を持つ狼のような魔物だ。

「まさか、これがこの森の守護者か!」

イグナスが苦笑しながら斬りかかるが、魔物は驚異的な速さで攻撃をかわし、逆にイグナスを押し返した。

「強い……!」

ラザールも続けて剣を振るうが、魔物は霧の中に溶け込むように姿を消し、再び真奈の背後から現れた。

「真奈!伏せろ!」

ラザールの叫びに反応し、真奈が地面に身を伏せる。魔物の爪が頭上をかすめ、地面に深い傷を残した。

「逃げ場がない……どうすれば?」

真奈は恐怖で体を震わせながらも、手のひらに感じる微かな光に気づいた。

「あの遺跡の時と同じ……これって、何かの力……?」

彼女が光に集中した瞬間、周囲の霧が一瞬だけ晴れ、魔物の位置がはっきりと見えた。

「そこだ!今だ、ラザール!」

真奈が指さした先に魔物の姿が浮かび上がる。ラザールは迷わず剣を投げつけ、その一撃が魔物の肩を貫いた。

「やったか?」

イグナスが警戒しながら様子を伺うと、魔物は苦しげに唸りながらも、消えるように姿を失った。

「……消えた?」

真奈が息を整えながら呟いた時、霧の奥から新たな気配が現れた。

姿を現したのは、年老いた魔族の女性だった。彼女は長い杖を持ち、全身を薄布で覆っている。

「試練を乗り越えし者たちよ……よくぞここまで辿り着いた。」

その静かな声に、真奈たちは剣を下ろした。

「あなたは、この森の守護者?」

真奈が尋ねると、女性は静かに頷いた。

「そう。私はこの森を司る『霧の魔女』。ここに訪れる者たちを見極める役目を担っている。」

「つまり、あの狼の魔物も試練の一部だったってことか?」

イグナスが苦笑しながら言うと、魔女は微かに微笑んだ。

「そうだ。あの魔物は私が生み出した幻影。しかし、それだけではない。この森に挑む者が心の闇に飲まれぬよう試すものでもある。」

真奈は自分の手のひらを見つめた。

「あの光も……私の力?」

「そうだ。それこそが『鍵』を持つ者の資質。この先、お前はその力をどう使うべきか問われるだろう。」

魔女は杖を振り、真奈の前に一冊の古びた本を出現させた。

「これは?」

「次の覚醒への道を示すものだ。だが、お前が力を正しく使う覚悟を持たねば、その道は開かれない。」

真奈は慎重に本を手に取った。その瞬間、暖かな光が彼女を包み、体の奥に新たな力が宿るのを感じた。

「行くのか?」

魔女が問いかけると、真奈は力強く頷いた。

「はい。この力を、みんなのために使いたいんです。」

ラザールとイグナスもその決意を感じ取り、静かに微笑んだ。

「ならば進むがいい。この先の道はさらに険しいが、お前たちならば乗り越えられるだろう。」

魔女の言葉を背に、三人は霧深き森を後にした。

こうしてまた一歩、真奈たちは覚醒と真の平和に近づいていく。しかし、森の出口で見た霧の中の影は、彼らに迫る新たな脅威を予感させるものだった——。

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