第7話 砂漠の試練と決意の絆
影の街で得た「覚醒の儀式」の情報を胸に、真奈たちは旅を続ける。次の目的地は、魔界でも特に過酷な環境で知られる「灼熱の砂漠」。ここには古代魔法の遺物が隠されているという噂があり、覚醒に必要な手がかりがあると信じていた。
「砂漠かぁ……想像してたよりも暑いね。」
真奈が額の汗をぬぐいながらつぶやく。見渡す限りの砂の海には、生き物の気配すらなく、太陽に似た灼熱の紅い月が空高く輝いていた。
「休んでる暇はないぞ。夜になればこの砂漠は極寒になる。日が沈む前に目的地に着かねばな。」
ラザールが冷静に指摘する。
「その上、昼夜問わず砂漠には魔物が潜んでるって話だ。油断すると砂ごと喰われちまうぜ。」
イグナスが肩をすくめながら冗談交じりに話すが、真奈の表情はどこか緊張している。
「……大丈夫、頑張るよ。」
真奈は自分に言い聞かせるように微笑み、足を踏み出した。
◇
長時間の行軍で体力が尽きかけた頃、遠くに廃墟のような建物が見えてきた。
「あそこか!」
ラザールが先頭に立って歩き出す。近づくと、それは巨大な遺跡で、砂に半ば埋もれた階段が入り口へと続いていた。
「やっと着いた……でも、なんだか不気味な感じがする。」
真奈が入り口を見上げながら呟いた。遺跡からは冷たい風が吹き出し、魔力の匂いが漂っている。
「気をつけろ。この手の場所には罠がつきものだ。」
ラザールが警告すると、イグナスは剣を構えながら笑った。
「まぁ、それが冒険ってやつさ。」
三人は遺跡の中に足を踏み入れた。
◇
遺跡内部は薄暗く、壁には古代文字が刻まれている。真奈が指で触れると、文字が淡く光り出した。
「これって……何か意味があるのかな?」
「古代魔族の祈りの言葉だ。鍵を持つ者が触れると反応する仕掛けらしい。」
ラザールが説明する間にも、壁に描かれた模様が次々と輝き始めた。
「なんだか、呼ばれているみたい。」
真奈が一歩進むと、突然、床が震え出した。
「気をつけろ!」
ラザールが真奈を抱き寄せた瞬間、床が崩れ落ち、三人は深い穴へと落ちていった。
◇
目を覚ますと、三人は広間のような場所にいた。壁一面に光る水晶が埋め込まれ、その中央には巨大な石碑が立っている。
「ここが遺跡の中心部みたいだな……だが、肝心の手がかりはどこだ?」
イグナスが周囲を見渡す。すると突然、石碑が低い唸り声を上げ、目の前に黒い霧が現れた。霧は次第に人の形を取り、漆黒の鎧をまとった魔族の幻影が姿を現した。
「ここに来る者よ。覚悟を示せ。さもなくば、この地を去れ。」
「覚悟……?」
真奈が呟くと、幻影は鋭い剣を振りかざした。
「試練の始まりだ。」
ラザールとイグナスが即座に構え、戦闘態勢に入る。
「真奈、ここは俺たちに任せて——」
ラザールが言い終わる前に、幻影が真奈に向かって突進してきた。
「えっ!」
驚いて身を引く真奈だったが、霧の剣が彼女の前で止まり、幻影の声が響いた。
「覚悟とは、他者の守護か、自身の犠牲か——どちらを選ぶ?」
真奈は言葉を失った。
「守護……犠牲……?」
「答えを示せ。それがお前の鍵の力を解放する。」
幻影の剣先が真奈を見据える。
◇
真奈は震える手を握りしめ、自分の心に問いかけた。これまで旅を通して出会った魔族たちの笑顔や、ラザールとイグナスが自分を守ってくれた場面が脳裏に浮かぶ。
「私は……!」
真奈が叫ぶと、彼女の手のひらに淡い光が灯った。それは祠で見た光と同じだった。
「私は、誰かを守りたい。そのためなら、犠牲も恐れない……!」
その瞬間、光が広間全体に広がり、幻影を包み込んだ。幻影は静かに消え、広間の中央に一冊の古びた書物が現れた。
「これが……試練の報酬?」
真奈が書物を手に取ると、それが柔らかな輝きを放ち始めた。
◇
広間を後にし、遺跡の外に出た三人。砂漠の夕焼けが広がり、冷たい風が吹き抜ける。
「お前、本当にすごいな。」
イグナスが笑いながら真奈の頭を軽く撫でた。
「いや、まだまだだよ。でも……あの時、本当に怖かったけど、自分の気持ちに正直になれた気がする。」
真奈は少し誇らしげに微笑んだ。
「これが覚醒の第一段階ということか。だが、まだ道のりは長い。」
ラザールの言葉に、真奈は力強く頷いた。
「次も、頑張るよ!」
◇
こうして、真奈たちはさらなる試練を目指し、新たな旅路へと足を進める。紅い月の下で紡がれる物語は、これからも続いていく——。
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