第6話 闇の街と秘密の取引

エルダの森での試練を乗り越えた真奈たちは、次なる目的地である「影の街」に到着した。ここは魔界でも特に陰鬱な雰囲気に包まれた場所で、密売や裏取引が横行している闇市で有名だった。

「ここに本当に手がかりがあるの?」

真奈が不安そうに周囲を見渡す。街の建物はどれも薄暗く、通りには顔を隠した魔族たちがうごめいている。

「確実な情報ではないが、古代の力を研究している錬金術師がいるらしい。その者が次の試練の手がかりを知っている可能性がある。」

ラザールは真奈の肩を軽く叩いて安心させようとした。

「ただし、気をつけろ。この街の住人たちは信じられない奴ばかりだ。」

イグナスが口元をゆがめながら言った。

「俺たちが観光客だと思われたら、骨の髄までしゃぶられるぞ。」

冗談交じりのその言葉が、逆に真奈の緊張を高める。

三人は細い路地を抜け、錬金術師のアジトと噂される店に向かった。その建物は朽ちた木材と黒い石でできており、入り口の上には魔法のルーンが刻まれている。

「ここか……中に入るぞ。」

ラザールが扉を押し開けると、中には薄暗い部屋が広がっていた。奥にある錬金術台には無数の薬瓶や巻物が散らばっており、中央には一人の老魔族が立っていた。

「何者だ?ここは勝手に入れる場所ではない。」

その男は鋭い目で三人を睨みつけたが、ラザールが持つ紋章を見ると、態度が一変した。

「……ヴァルディアの王族か。珍しいな、こんなところまで足を運ぶとは。」

老魔族は「オスロ」と名乗り、真奈たちに椅子を勧めた。

「私が知っているのは、鍵の力に関する古い伝承だ。だが、それを教えるには対価が必要だ。」

「対価?」

真奈が首をかしげると、オスロは不敵な笑みを浮かべた。

「この街にいるなら知っているだろう。何事にも取引が必要だ。それがこの場所のルールだ。」

「どういう取引が望みだ?」

ラザールが冷静に尋ねると、オスロは慎重に言葉を選びながら答えた。

「街の外れにある古代の遺跡。そこに眠る魔法の結晶を持ってきてほしい。ただし、その場所を守る魔物たちは強力だ。」

その依頼に対し、ラザールは一瞬考え込んだ。

「その結晶が俺たちの探す鍵の力とどう関係がある?」

「その結晶を使えば、鍵をより深く覚醒させるための儀式を行うことができる。お前たちが必要としているのは、その覚醒の儀式だろう?」

オスロの説明にラザールはしぶしぶ頷き、依頼を受けることを決めた。

街の外れにある遺跡は廃墟と化した城のような場所だった。崩れた柱や石畳が散乱し、あたりには不気味な静寂が漂っていた。

「どうしてこんな場所に結晶なんてあるんだろう……」

真奈が呟いた瞬間、周囲から低い唸り声が響き渡った。遺跡の影から現れたのは、巨大な四足の魔物だった。牙を剥き出しにして吠えるその姿は、恐ろしいほど凶暴そうだった。

「やはり出たか……真奈、ここは下がっていろ!」

ラザールが剣を抜き、イグナスも武器を構えた。

「さて、俺の腕が鈍っていないことを証明するか。」

イグナスが笑いながら魔物に向かって突進していった。

戦いは熾烈を極めた。魔物は硬い外殻を持ち、ラザールの攻撃を受けてもなかなかダメージを与えられない。

「このままじゃ埒が明かない……」

真奈は必死に考えた。何かできることはないだろうか?

そのとき、祠で得た光の力が再び彼女の中で目覚めるのを感じた。真奈は手を広げ、心の中で強く念じた。

「お願い……みんなを助けたい!」

彼女の手のひらから放たれた光は魔物の動きを一瞬止め、その隙にラザールが一撃を加えた。魔物は苦しげな咆哮を上げ、地面に崩れ落ちた。

「真奈、お前……!」

驚きの表情を浮かべるイグナスに対し、真奈は息を切らしながら答えた。

「わからないけど……力が勝手に出てきて……」

ラザールは真奈の肩を掴み、真剣な表情で言った。

「その力はお前だけのものだ。だが、次の試練ではもっと危険な場面があるだろう。覚悟しておけ。」

「……はい!」

真奈は小さく頷き、結晶を手に入れたことで、彼女の中には新たな決意が芽生えていた。

街に戻り、結晶をオスロに渡した真奈たち。オスロは満足げにそれを受け取ると、静かに語り始めた。

「鍵の覚醒には三段階ある。お前たちが踏み出したのはその第一歩にすぎない。」

「それは具体的にどういう意味だ?」

ラザールが問いただすと、オスロは意味深な笑みを浮かべた。

「それはお前たち次第だよ。だが、一つだけ忠告しておこう。その力には代償が伴う。」

その言葉に一同は緊張を強めた。真奈の胸には、祠で聞いた不思議な声と、これからの道のりへの不安が渦巻いていた。

「代償……それって何?」

その問いにオスロは答えず、ただ微笑むだけだった。

こうして真奈たちは、さらなる試練に備え、影の街を後にする。新たな仲間や敵が待つ次の旅路へ——彼らの物語はまだ始まったばかりだった。

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