第5話 森の祠と封印されし力
ヴァルディアの都を後にした真奈たちは、次の目的地である「エルダの森」に向かっていた。その森には、魔界の古代遺跡である「森の祠(もりのほこら)」があり、そこに魔界を混乱から救う鍵に関するさらなる手がかりが眠っていると言われている。
「エルダの森はただの森じゃない。中に入ると空間がねじれて、何度も同じ場所を歩いているように感じることがあるらしい。しかも、魔物が巣食っている危険地帯だ。」
イグナスの説明を聞いた真奈は、不安と緊張を隠しきれなかった。しかし、ラザールは彼女の肩に手を置き、力強く言った。
「俺たちがいる限り、お前に指一本触れさせはしない。心配するな。」
その言葉に真奈は小さく頷き、少しだけ勇気を取り戻した。
◇
エルダの森に足を踏み入れた瞬間、真奈は圧倒されるような不思議な感覚に包まれた。高くそびえる黒い木々は空を覆い隠し、月の光すら届かない。その代わりに、木の幹や葉の間を漂う青白い光が、幻想的な風景を作り出していた。
「うわぁ……綺麗だけど、ちょっと怖い……」
「怖いだけじゃないぞ。ほら、あれだ。」
イグナスが指差す方向を見ると、影のように動く魔物たちの姿があった。それらは森の闇に紛れ、獲物を狙うように低い唸り声を上げている。
「油断するな。あいつらはこちらを見ている。」
ラザールの言葉に、真奈も緊張を強める。彼女は護身用に渡された短剣をぎゅっと握りしめた。
◇
森の奥へ進むにつれ、道はどんどんわかりにくくなり、同じ景色が繰り返されているような感覚に陥った。真奈が疲れた様子で足を止めると、イグナスが肩を軽く叩いて励ました。
「もう少しだ。お前はよく頑張ってるよ、真奈。」
その言葉に少し元気を取り戻した真奈が歩き出そうとした瞬間、突然地面が揺れ、大きな魔物が現れた。それは地面から現れたように見えた巨大な蛇型の魔物で、赤く光る目が三人を睨みつけている。
「まずい……!これは普通の魔物じゃない!」
イグナスが剣を構えると同時に、魔物が牙を剥いて襲いかかってきた。
「真奈、離れていろ!」
ラザールの叫びに応じて、真奈は一旦安全な場所に逃げた。しかし、戦いは激しさを増し、ラザールとイグナスが攻撃を加えても魔物はびくともしない。
「このままじゃ……!」
真奈は短剣を握りしめながら、自分にできることを必死に考えた。
◇
戦いが膠着状態に陥ったそのとき、真奈の耳に微かな声が響いた。
「来たれ……鍵を持つ者よ……祠が汝を待つ……」
「えっ……誰?」
不思議な声に導かれるように、真奈は森の奥へと歩き出した。ラザールたちが魔物と戦う中、真奈は光る木々の間を抜け、祠の入り口にたどり着いた。
そこにあったのは、古代の文字が刻まれた石碑と、中央に輝く水晶の台座。真奈が近づくと、台座が淡い光を放ち始めた。
「これが……鍵の力……?」
真奈が台座に手を触れると、彼女の体から眩しい光が放たれ、森全体に広がった。その光は蛇型の魔物を包み込み、魔物は叫び声を上げて消滅していった。
◇
「真奈!」
戦いを終えたラザールとイグナスが駆け寄ってきた。
「お前……今のは何だったんだ?」
ラザールが驚き混じりに尋ねると、真奈は首を振った。
「わからない。でも、誰かが私を呼んで……それに従ったら、光が……」
「どうやら祠が反応したらしいな。」
イグナスが石碑を指差しながら説明した。そこには新たな文字が浮かび上がっていた。
「鍵は試練を乗り越え、真の力を得る。汝の旅はまだ始まったばかり。」
「……試練か。」
ラザールは真剣な表情でその文字を読み上げ、静かに呟いた。
◇
森を抜けた後、三人は焚き火を囲みながら休息を取っていた。
「真奈、あの光はお前の中に眠る力だろう。だが、それをどう扱うかはお前次第だ。」
ラザールが穏やかな声で語りかけると、真奈は頷いた。
「私……怖いけど、この力をちゃんと知りたい。そして、この旅を最後まで続けたい。」
その決意に、ラザールは小さく微笑んだ。イグナスも彼女をからかうように言った。
「お前もだんだん頼もしくなってきたじゃないか。でも、その調子で無茶はするなよ?」
「……うん!」
真奈の心には、新たな勇気と決意が宿っていた。森の祠での出来事を経て、彼女は少しずつ、自分が魔界に召喚された意味を理解し始めていた。
こうして、真奈たちは次の試練へ向けて歩き出すのだった。
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