第4話 魔界の都と隠された真実

闇の森での試練を乗り越えた真奈は、少しずつ自分に自信を持ち始めていた。それでも、魔界に広がる混乱の全貌や、自分が本当に「鍵」として役に立てるのかという疑問は尽きない。そんな中、ラザールたちは魔界の都「ヴァルディア」に立ち寄ることに決めた。

「ヴァルディアには、魔界で最も古い書物が保管されている図書館がある。お前の力について、さらに手がかりを見つけられるかもしれない。」

ラザールの提案に、真奈は頷いた。彼の言葉の端々から、自分を信じてくれている思いを感じられるのが嬉しかったからだ。

「すごい……これが、魔界の都……」

ヴァルディアの街並みを目にした真奈は、思わず声を漏らした。空に浮かぶ赤い月の光を受けて、黒い石造りの建物が荘厳な輝きを放っている。街には魔族たちが行き交い、鮮やかな市場では異世界らしい果物や宝石が並んでいた。

「初めて見るものばかりで驚いているだろうけど、あんまり目立たないようにな。人間はここでは珍しいんだから。」

イグナスが冗談めかしながらも警告する。真奈はコートのフードを深く被り、ラザールに寄り添った。

「ここでは何が起きても不思議じゃない。気を抜くな。」

ラザールの低い声が真奈を緊張させるが、その隣で彼がしっかりと守ってくれると感じるのも確かだった。

ヴァルディアの中心にそびえる大図書館は、魔界の歴史を象徴するような建物だった。高い天井には魔術で描かれた星図が浮かび、無数の本棚が迷路のように広がっている。

「古代の予言書はこの奥に保管されているはずだ。」

ラザールが案内し、真奈たちは厳重な魔法の結界を越えて最奥の部屋にたどり着いた。そこにあったのは、黒い装丁の厚い本——「運命の書」。

「これが、魔界を導く予言が記された書物……」

イグナスが神妙な面持ちで本を開いた。しかし、そこには驚くべきことが記されていた。

『鍵を持つ者——その存在は魔界に光をもたらすも、同時に深き闇を呼ぶ』

「闇を呼ぶ……?」

真奈はその言葉に息を呑んだ。自分が光をもたらす存在だと言われていたのに、どうして同時に闇も呼ぶのか——その意味がわからない。

「……予言の一部が破損している。全ての内容はわからないが、これだけは確かだ。」

ラザールが低い声で告げた。

「お前の存在が、魔界の未来に大きな影響を及ぼす。それが良い結果か、悪い結果かはわからない。」

「そんな……」

不安に押しつぶされそうになる真奈。しかし、ラザールは彼女の肩に手を置き、真剣な眼差しで言った。

「俺は信じる。お前は光をもたらす存在だ。だが、この予言が正しいなら、俺たちは覚悟を持って進まなければならない。」

その言葉に真奈は深く頷いた。

大図書館を出た後、真奈たちは都で休息を取ることにした。しかし、そこで思わぬ出来事が起きる。街の広場で突然、謎の集団が現れたのだ。黒いフードで顔を隠した彼らは、何かの儀式を始めようとしているようだった。

「……これは厄介だな。」

イグナスが剣の柄に手をかける。フードの集団が何かを唱えると、空気が変わり、広場の中心に闇の魔物が召喚された。

「ラザール、あれは……!」

「暗黒教団の連中だ。魔界の混乱をさらに広げようとしている。」

ラザールが剣を抜き、真奈を背後に庇う。

「真奈、お前はここにいろ!」

そう言い残し、ラザールとイグナスは魔物に立ち向かう。しかし、戦いの最中、真奈はある異変に気づいた。フードの集団の中に、自分に向けて手を伸ばしてくる者がいたのだ。

「……あなたが“鍵”なのですね。」

その声は、どこか冷たく、しかし哀しげだった。その瞬間、真奈の周囲に光の輪が現れ、彼女はその中に閉じ込められてしまう。

「真奈!」

ラザールが叫び、彼女を助けようとするが、魔物に阻まれる。

「待って……!」

真奈は恐怖を感じながらも、必死で自分を閉じ込める力に抗った。その中で、不思議な感覚が彼女を包む。まるで、何かが自分の中で目覚めようとしているような——。

「私は……逃げない!」

真奈がそう叫ぶと、光の輪が弾け飛び、彼女の手から眩しい光が放たれた。その光は魔物を焼き払い、フードの集団をも消し去る。

戦いが終わり、ラザールとイグナスが駆け寄ってきた。

「……お前、今の力は……?」

ラザールが驚き混じりに尋ねると、真奈は小さく首を横に振った。

「わからない……でも、これが“鍵”の力……なのかな?」

彼女自身も、その力の正体に戸惑っていた。しかし、ラザールは深い息をつき、彼女の頭に手を置いた。

「よくやった。お前は、確かに俺たちに必要な存在だ。」

その言葉に、真奈は胸が温かくなった。自分がただの中学生ではなく、この世界で重要な役割を担っていることを、少しだけ実感できた気がしたのだ。

こうして、真奈たちは再び旅を続ける。予言の謎、鍵の力、そして暗黒教団——彼らの前には解くべき謎がまだまだ残されている。だが、真奈の心には新たな決意が宿っていた。

「どんな困難があっても、この旅を続ける……ラザールさんやイグナスさんと一緒に。」

その思いが、彼女をさらに強くしていくのだった。

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