第9話

 日が経つごとに、人が少しずつ集まってきた。

 最初に来た数名が森へ出て、ほかに困っている人を探して呼び寄せたらしい。

 中には年配者や小さな子どももいて、総勢で十数人ほどになった。


「ゼフィルさん、すごいですよ。もうこんなにみんなで畑を耕して……」


「俺たち二人じゃとても無理だったけど、人手が増えるとやっぱ違うな」


 廃村には壊れかけの家がいくつもあったが、手分けして修理すれば仮住まいには十分だ。

 農具や生活用品も、あちこちの廃屋を漁れば意外と残っている。


「リーダー! このあたりは石が多いみたいっスね。どうします?」


 若い男が声をかけてきた。

 “リーダー”と呼ばれるのにはまだ慣れないが、俺が仕切っている以上は当然といえば当然か。


「石を取り除くのは大変だが、みんなで分担すりゃ何とかなる。それと、石はうまく積み上げれば家の補強や柵として使えるぞ」


「なるほど! わかりました」


 俺は指示を出しながら、ふと我が事ながら驚いていた。

 王都にいたときの俺は、貴族の体裁だけでほとんど実務なんてやったことがない。

 それがここに来て、スキルを頼りにしながらではあるが、こうして人をまとめているのだから。


「ゼフィルさん、野草の種を蒔いた場所で芽が出ましたよ! しかも、成長が早いように感じます!」


「まじか! よし、もっとスキルを使って畑全体を活性化させるぞ!」


 コークスの報告に胸を弾ませ、俺は畑に急行した。

 確かに、芽が出たところはもう緑が映えている。

 俺が土に手を当てると、再びあの暖かい光が溢れ出し、作物がさらにイキイキしていくのがわかった。


「すげえ……マジで黄金郷の始まりって感じだな」


 周りの仲間も感嘆の声を上げる。

 みんなの希望が一気に花開くようで、気持ちが高揚するのを抑えきれない。


「これなら、ちゃんと食料を確保できそうだ。みんな、がんばろうぜ!」


 活気に満ちた声が廃村に響き渡る。

 行き場を失った人々が、ここで新しい人生を歩もうとしているんだ。

 そんな姿を見て、俺は改めて決意を固める。


(絶対に、こんな小さな村でも守り抜いてやる。領主の横暴なんかに負けるもんか)


 まだ作物が十分に育つには時間がかかるし、今のところは森からの狩りや採集にも頼らざるを得ない。

 けれど、この勢いで畑を拡張していけば、いずれ豊かな収穫を得られるだろう。


「ゼフィルさん! この家、壁が崩れてたのをみんなで直して、住めるようにしました!」


「おお、ありがたい! これで雨風も凌げるな。みんな、お疲れさん!」


 それぞれが自分にできることを探し、廃村に少しずつ命が吹き込まれていく。

 俺の心は、見えない炎が燃え上がるように熱くなるばかりだった。

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