第7話

 男たちは自分たちが“領主の部下”であり、辺境の治安を取り仕切っていると名乗った。

 それを聞いた瞬間、俺は嫌な予感がしてならなかった。

 貴族というものは、どうにも俺にとってロクな思い出がないからだ。


「ここは俺たちの領主様の管轄だ。住んでいるならそれなりに納税やら義務が発生するぜ」


「納税って……ここは廃村だろ? 俺がいま再生に取り組んでる最中なんだが」


 男たちは鼻で笑い、横柄な態度を崩さない。

 明らかにこちらを下に見ているのがわかる。

 それがまた、王都の空気を思い出させて俺の中に嫌悪感を呼び起こす。


「確かに廃村だったが、今はお前が住んでいる以上、うちの領主様に許可を取る必要がある。わかるよな?」


「言いたいことはわかるけど、今はまだ作物もまともに育ってない。納税なんてできるわけがねえだろ」


「ふん、そんなのこっちの知ったことか。ある程度生産できるようになったら、しっかり納めるもんは納めてもらう。文句ないよな?」


 男の態度は高圧的で、こちらの事情など考える気がなさそうだ。

 まるで「納税できなければ追い出すか、それ相応の処置を取る」という雰囲気すら漂っている。


「ずいぶん勝手じゃねえか。俺はこの土地をどうにかしたいから来ただけだぞ」


「はは、世の中そんなもんだろ? いやなら出ていくか、俺たちに逆らって痛い目を見るかだな」


 仲間たちも薄ら笑いを浮かべている。

 こいつら、領主の看板を楯に取り、好き勝手やっているに違いない。

 俺が王都で見た醜い貴族連中と同じ臭いがする。


 思わず拳を握りしめるが、下手に怒りを爆発させれば向こうは武器を取るだろう。

 領主に目をつけられるのも面倒だ。

 ここは、うまく言い含めて彼らを帰らせる手段を考えなきゃならない。


「わかった。何とかする。だから、少し時間をくれ。今すぐ納税なんかできる状況じゃねえんだからさ」


 俺が冷静を装ってそう言うと、リーダー格の男は鼻を鳴らしながら馬にまたがった。

 どうやら一旦は引き上げるようだが、その顔には不快なほどの嘲りが浮かんでいる。


「まあいい。お前らが真面目にやるなら、いずれ領主様から正式に“保護”してやってもいい。俺たちも慈悲深いからな」


「その“保護”ってのが不当に高い税金とかだったら、断るぞ」


「何だと?」


 男が一瞬、険しい顔をする。

 ここで言い返せば揉める可能性があるが、すでに頭に血が上りかけている俺を止める声が聞こえた。


「ゼフィルさん、落ち着いて……」


 少し離れたところから、コークスが怯えた様子で俺を見ている。

 彼はここで衝突すれば、自分たちがひどい目に遭うかもしれないと考えているのだろう。


「……ふん、覚えておけ。俺たちはいつでも来れるからな。適当にナメた態度とってると痛い目見るぜ」


 そう捨て台詞を残して、男たちは馬を走らせて去っていった。

 それを見送るしかない俺たち。

 悔しいが、今はまだまともに作物もできてない状況じゃどうしようもない。


「すみません……俺、怖くなってしまって」


「いいんだ。今は無理にケンカして勝てる相手じゃない。あいつら、ただの部下でも手強そうだったからな」


 俺はコークスに優しく声をかけ、固くなった拳をゆっくり開いた。

 いずれこの土地が繁栄したとき、ああいう連中が本格的に介入してくるのは必至だ。

 それでも、負けるわけにはいかねえ。

 何としてもこの土地を守り抜いて、皆で幸せに暮らせる場所にしてやるんだ。


「よし、とにかく今は畑を完成させることだ。腹が減っても俺は負けねえぜ!」


 俺は気合いを入れ直すように声を上げ、コークスとともに再びクワを握った。

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