第6話

 コークスと二人で畑を耕していると、不思議と時間が経つのがあっという間に感じた。

 太陽が高く昇ったころには、かなりの範囲を耕せるようになっていた。

 スキルの力で土は柔らかく、作物を育てる準備は万端だ。


「ゼフィルさん、信じられませんよ……こんなに早く畑が整うなんて」


「はは、俺も正直驚いてるさ。でも、俺たちの仕事はまだこれからだ」


 そう言って微笑むが、そろそろ体力の限界も近い。

 二人とも腹が減って仕方ないが、この辺りには食糧となる獲物もあまりいない。

 それでも、これだけ畑を作れば、いずれは食糧問題も解決できるだろう。


 そんなとき、遠くから馬の足音のようなものが聞こえた。

 ここに来て以来、初めて聞く音だ。

 俺は慌ててコークスと一緒に、廃村の建物の陰に身を隠した。


「誰だろう……まさか、荒野の盗賊か何かか?」


「ゼフィルさん、下手に刺激しないほうが……」


 コークスが怯えたように小声で言う。

 辺境には盗賊や流れ者が多いと聞く。

 穏便にやり過ごせればいいが、彼らがこの畑に目をつけたら厄介だ。


 やがて複数人の男たちが馬に乗って近づいてくるのが見えた。

 しかし見たところ、いかにも“荒くれ者”という風ではなく、そこそこの装備をしている。

 軽装だが鎧を着けている者もいて、顔つきにも余裕が感じられる。


「盗賊って感じじゃないな……でも、油断はできねえ」


 慎重に様子を窺っていると、男たちは廃村の入り口あたりで馬を下りた。

 どうやら廃墟の状態を確認しているらしい。


「おい、ここは本当に誰も住んでいないのか?」


「長いこと放置されてた村だって話だが……最近になって誰かが畑を耕してるっぽいぞ」


 男たちがそんな会話を交わしているのが聞こえ、コークスと顔を見合わせる。

 彼らは噂を聞きつけて来たのか、それともただの興味本位か。

 いずれにせよ、隠れてばかりでは埒があかない。


「コークス、少し待ってろ。俺が話をしてくる」


「え、危なくないですか?」


「ここで黙ってると逆に怪しまれる。大丈夫、もし何かあったら俺がぶっ倒すから、安心しろ」


 そう言って俺は納得したコークスを建物の陰に残し、単身で男たちの前に姿を現した。

 五人ほどいるが、全員がこちらに警戒の目を向けている。

 俺はあえて大きな声で彼らに呼びかけた。


「おい、俺はこの廃村を使ってる者だ。何か用があるのか?」


「ほう、お前がここに住んでるのか。なるほど、やはり噂どおりだったようだな」


 男たちのリーダー格らしき人物が、こちらを値踏みするような視線を送ってくる。

 ただものではなさそうな気配に、さすがに俺も一瞬身が引き締まる。


「どうやら、お前さんが“農地を蘇らせた”って噂の主らしいな?」


 俺は心の中で驚いた。

 まだごく短い時間しか経ってないのに、噂がもう広がってるのか。

 辺境といえども、情報は意外な速度で伝わるものらしい。


「まあ、似たようなもんだ。で、そっちの用件は?」


「へへ、そう慌てるなって。この辺りは俺たちが治安維持してる領主様の管轄だ。勝手な開墾は……まあ状況次第でいろいろ考えてやるよ」


 にやりと笑う男の目が、どこか胡散臭く光る。

 俺は妙な胸騒ぎを覚えながら、彼らの次の言葉を待つしかなかった。

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