第4話

 辺境の廃村を拠点にすると決めた以上、まずは食料や水源を確保するのが先決だ。

 運良く、小川が少し離れた森の近くを流れているのを見つけた。

 これなら水の心配はそこまでないはずだ。


「さて、食料はどうするか……」


 俺はスキルで畑を蘇らせることができても、種がなければ作物は育たない。

 そこで森のほうに足を向け、野草や果実になりそうなものを探すことにした。

 軽く腹ごしらえもしたかったので、食べられるキノコや木の実でもないかと目をこらす。


「お? あそこの木には実がなってるな……試しに食えるかどうか確かめてみるか」


 そう呟きながら木に近づくと、不意にかすかな人の声が聞こえた。

 辺境の森に人がいるなんて、珍しいこともあるもんだ。

 俺は音を立てないよう気をつけながら、そっと声のする方向に近づく。


「……助けて……誰か……」


 息も絶え絶えの細い声が聞こえてくる。

 そこには、ボロ布をまとった痩せこけた男が倒れていた。

 顔は泥だらけで、髪もボサボサ。とても健康そうには見えない。


「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」


 俺は慌てて男に駆け寄り、木陰に移してやる。

 どうやらひどい栄養失調と脱水症状らしく、ほとんど力が出ないようだ。

 少し水を口元に含ませると、男は弱々しくそれを受け取った。


「……ありがとう……まさか、こんな辺境で人に会えるとは……」


「お前こそ、どうしてここにいるんだ? それにずいぶん痩せてるが」


 聞くと、男は生活に困って王都近郊から逃げてきたらしい。

 しかし途中で金は尽き、まともに食事も取れずこのありさま。

 似たような境遇なのかと思うと、放っておけない気持ちになった。


「ここには人がいないと思ってたが……俺も似たようなもんだよ。王都を出てきたんだ」


 そう言うと、男は弱々しく微笑んだ。

 なんでも、彼の名はコークスといい、もともと農村出身だけど、凶作が続いて逃げ出したとのこと。

 農民なら、畑仕事の経験があるはずだ。


「そりゃ好都合だ。俺は今、辺境の廃村を再生するつもりなんだ。お前も来ないか?」


 男は驚いたように目を見開いた。

 正直、疲れ切った彼がどこまで役に立てるかわからないが、人手が多いに越したことはない。

 それに、同じように追い詰められた仲間が増えれば、心強い。


「そんなこと……本当にできるのか?」


「俺には“農地再生”ってスキルがあってな。痩せた土地を肥沃にできるんだ。成功すれば、ここは黄金郷だぜ!」


 大げさな物言いだが、実際に俺のスキルを見せてやれば、彼もきっと希望を持てるだろう。

 男は弱々しく微笑み、ふらふらと立ち上がろうとした。

 俺は慌てて支え、森を出て廃村へ戻るべく足を進める。


「俺はゼフィル。これからよろしくな! 絶対に負けねえから、安心しろ」


 こうして、俺は初めての仲間――コークスを得たんだ。

 この出会いが、俺の冒険の次なる一歩を大きく進めることになるとは、そのときまだ気づいていなかった。

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