第2話

 それから数日、王都周辺の街道を外れ、人気のない荒野をひたすら歩いていた。

 腹は減るし水も尽きかけ、正直しんどい。

 それでも、こんな半端な状況で引き返したくはない。

 意地だけで砂だらけの道を進み続けていた、まさにその時だった。


「おい……ここ、やけに地面が荒れてるな」


 砂粒というよりは岩屑だらけで、ほとんど草も生えていない。

 魔獣が出る噂もあるが、地形的に作物なんか到底育つ場所じゃない。

 途端に頭の中で「農地」という言葉が閃いた。

 なぜか心臓の奥から妙な力が湧き上がるような感覚がして、つい足を止めてしまう。


「……変だな。なんか胸が熱い」


 手で胸を押さえると、そこから淡い光が生まれた。

 自分の身体から光が漏れている? 一瞬、驚きで声も出なかった。

 だが次の瞬間、まるで導かれるように手を地面へ伸ばすと、その光は砂まみれの大地を包み込むように広がっていく。


「こ、これは……何だ?」


 俺の手のひらから広がる淡い光が、土の色をほんのりと変化させているように見えた。

 硬く乾いた地面が、ゆっくりと湿り気を帯び始めたんだ。

 しかもほんのわずかだが、さっきまで見当たらなかった若草が顔を出している。


「信じらんねえ……もしかして、これが新しいスキルか?」


 貴族の家に生まれたからといって、強力な魔法やスキルが必ず手に入るわけじゃない。

 俺は今までまったく特筆すべき能力を持たず、剣術もそこそこ止まりだった。

 それが突然、「農地再生」なんて聞いたこともないようなスキルが発現したなんて。


「でも……すげえな。もしかして、この土地でも作物が育つようになるのか?」


 夢物語のような話だが、今目の前で起きている現象がすべてを物語っている。

 荒野が少しずつ、だが着実に“活気”を取り戻しているんだ。

 まるで空腹と疲れを吹き飛ばすような力強さを感じて、俺は思わず拳を握りしめる。


「よし、これなら俺にも道が開けるかもしれねえ。なんたって、こんなスキルは初めて見たからな」


 王都で見下されていた俺が、まさか農地を蘇らせる力を持つだなんて、誰が予想しただろう。

 胸が高鳴るのを感じながら、ここから先の未来が少しだけ明るく見えた。

 何もない場所にこそ、逆にチャンスがあるのかもしれない。


「まずは、このスキルをもっと試してみるか。俺の運命、いよいよ面白くなりそうだな!」


 砂上に手を当てながら、俺は高揚感を隠せないまま叫んだ。

 これこそが、俺が新たに掴んだ希望なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る