王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫

第1話

 俺の名はゼフィル。

 かつては名門と呼ばれた貴族家の末裔……だったが、今では親族同士のいがみ合いに巻き込まれるのにうんざりしている。

 誰がどれだけの遺産を受け取るかだとか、爵位をどう相続するかだとか、そんなくだらない争いを見ていると息が詰まって仕方ない。

 だから俺は決めたんだ。遺産なんてくれてやる、もう王都なんか出て行ってやるってな。

 こうして身一つで荒野へ旅立つことにしたのが、すべての始まりだった。


 王都を離れる日の朝、いつもと違う静けさが屋敷を包んでいた。

 そして俺は最低限の荷物をまとめ、こっそりと裏口から外へ出る。

 親族には黙ってきたが、どうせすぐに気づくだろう。追って来るかはわからないが、もう二度と戻るつもりはない。

 剣術の心得はあるとはいえ、金も地位もない俺がこの先どう生きるかは未知数だ。

 しかし、ここを出ないことには先へ進めない。


(ここから本当に自由になれるのか?)


 そう自問した瞬間、心の中がなんだか晴れやかになるのを感じた。

 悩み続けた日々が嘘みたいに、足が軽い。

 肩に下げた小さな荷袋の重さすら、もう気にならない。

 俺は一歩、そしてまた一歩と、王都の高い城壁から遠ざかるように歩き始めた。


「ふう……どうなるかわからねえが、やってやるしかないよな」


 思わず独り言が漏れる。

 自分の声を聞いて、さらに決意が固まった。

 どこかで領地でも開拓して農民でもやれたら、平和に暮らせるんじゃないか――なんて甘い夢を抱きながら、俺は王都を後にしたんだ。


(俺にはまだ何もねえ。でも、きっと俺は負けないぜ!)


 そう思うと自然に拳が握り締められる。

 このまま俺の運命は転がり落ちるのか、それとも意外な形で花開くのか。

 何もわからないけれど、後悔はしてない。


「よし、まずは旅の始まりだ。これからが本番だぜ」


 俺は胸いっぱいに風を吸い込んで、思い切り息を吐いた。

 そして踏みしめた道の先、まだ見ぬ遠い荒地へ向けて歩みを進める。

 王都を捨てた日、それは俺の新しい物語が幕を開ける時でもあった。

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